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『ひかりあつめて』短評

 先月、日本児童文芸家協会賞の発表があり、協会賞受賞作が杉本深由起『ひかりあつめて』に決まりました。詩集としては3回目の受賞になるそうです。遅ればせながら読んでみたので、短評をあげてみたいと思います。

  

ひかりあつめて: ことばの力でいじめを超える!〈詩集〉

ひかりあつめて: ことばの力でいじめを超える!〈詩集〉

 

 

www.jidoubungei.jp

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 作者の杉本さんは大阪在住で、児童詩・児童文学においては知られた方です。これまでも子供や弱者と真摯に向き合った作品を作ってきました。印象に残っているものでは、こちらがあります。 

やくそくするね。

やくそくするね。

 

  阪神大震災をテーマにした作品で、震災当日の大変な状況が子供のさけびとして力のある言葉でつづられています。昨年、震災をテーマにした展覧会が神戸中心に行われていましたが、震災のことを風化させないために、言葉の力をつないでいくことも大切なのだと思います。

 昨年の5月に出た『ひかりあつめて』は、NHKの番組「いじめをノックアウト」への協賛詩集という形をとって、作者の体験も踏まえつつ、いじめで傷ついた一人の少女に寄り添って紡がれた詩です。傑作や秀作というよりは、力作という評が正しい作品でしょう。詩集全体を通して、一人の少女の戦いと成長の物語が浮かび上がってきます。

www.nhk.or.jp

 作者のまなざしは子供の心の光と闇の両方に注がれています。いじめで傷ついた少女にただ優しい言葉をかけて癒すだけではなく、いじめっ子たちがかけた汚い言葉もストレートに詩の中に入れることで、心を傷つけるナイフと向き合うことの大切さ・大変さ・強さも表されています。そして、「いじめを超える」ために前向きに心を成長させていく強さ、希望を持つことや未来に向けて歩んでいくことの大切さも伝わってきます。

 推敲に推敲を重ねて紡がれた言葉には、作者がずっとテーマにしてきた、弱者や子供に向けた包容力あるあたたかいまなざしが詰まっています。そして、子供の心にいかに寄り添うか、苦心している姿が伝わってきます。この詩集を読むことで、いじめられる側だけでなく弱者の側に立って考える、心の優しさと勇気を得ることができるでしょう。かさついた日常生活を送る大人を励ましてくれる作品でもあると思います。