otomeguの定点観測所(再開)

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挨拶と上下関係と会社組織

 日本の社会、特に会社において、挨拶をするということは、コミュニティ内における上下関係と深いかかわりを持っています。日本の会社における指導・伝達みたいになりますが、以下にこじつけの一例を示してみましょう。

 江戸時代、幕府によって朱子学が奨励されると、礼儀作法が人を敬うという意味を強く帯びるようになり、上下関係を強固にする手段として使われるようになりました。そこから現在のように目上の人間に挨拶をするという習慣が定着したと考えられます。

朱子学 - Wikipedia

 江戸時代に朱子学が奨励されたことは学校の歴史で勉強します。例えば、徳川綱吉湯島聖堂を建設して以降、幕府の中で朱子学が活発に講義されるようになりました。朱子学だけでなく、陽明学なども含めた儒学という大きなくくりも含みます。この綱吉の政策は、その後の幕府および江戸時代に大きな影響を与えました。綱吉というと『水戸黄門』をはじめどうしても悪役というイメージが伴ってしまいます。しかし、綱吉は政治哲学については優れた将軍だったと思います。将軍晩年期の悪政と富士山の噴火がかなり良くないイメージを作り、悪い将軍というレッテルが張られているのでしょう。

儒教 - Wikipedia

陽明学 - Wikipedia

徳川綱吉 - Wikipedia

湯島聖堂 - Wikipedia

 さて、朱子学とは平たくいえば目上の人間を敬えという学問です。身分制度と同様に、コミュニティの中で明確に序列がつくわけです。親が偉い。年長者が偉い。しかし、偉いからといって威張り散らしているだけではうまくいかないので、偉い人間はその責任を果たすために頑張らなければいけません。

 朱子学においては礼儀・礼節が非常に重んじられているので、目に見える形でそれを表現しなければなりません。『忠臣蔵』の浅野内匠頭はこれができなかったという理由で切腹になりました。

浅野長矩 - Wikipedia

 礼儀・礼節を表現するとき、大切になってくるのが挨拶です。挨拶は単なるコミュニケーションの手段というだけではなく、礼儀・礼節と深い関係があります。目下の人間が目上の人間に挨拶をすることで、上下関係をはっきりさせるのです。この挨拶の効用は江戸時代には重宝されたでしょうし、現在の日本の会社組織においても非常に重要な効果を持っています。

 挨拶の最も大きな効果は、第三者に分かりやすく伝わるということです。会社の外部の人間が見た目で会社内の上下関係を判断するのは非常に難しいですが、そこにびしっとした挨拶が存在すれば、上司が誰か一発で分かります。社外の人間が会社について知りたいと思うとき、それはある部署・支店などのボスについて知りたいということとほぼ同じ意味です。挨拶が分かりやすいアピールになるわけです。

 また、上下関係がはっきりしている組織には、情報の伝達スピードが速いという利点があります。これは上からの命令伝達を意味するだけではなく、下からの情報をトップが素早く正確に把握するということも意味します。細かい情報でもトップが把握しているのといないのとでは、指示の正確さが大きく変わります。組織の中で下から上に情報を伝える時、伝える先が明確であれば伝達のスピードが速まります。誰に伝えようかと躊躇していれば、情報の鮮度は刻一刻と落ちていきます。

 江戸時代、情報の伝達と共有のスピードは非常に速かったといわれています。上からの指示が素早く伝わったというだけでなく、庶民の情報を武士が素早く把握し、的確な決断を下していたということも意味します。挨拶をすることで円滑な上下関係を作り、強い組織を作ることで、社内の情報のスピードと正確さを高める効果もあるというわけです。