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東山彰良『罪の終わり』短評

 昨年、『流』で直木賞を受賞した東山彰良が『ブラックライダー』の前日譚を発表しました。ポスト・アポカリプスものの佳作です。

 【食人ってごく普通のことですよね】 

罪の終わり

罪の終わり

 

  『ブラックライダー』では名前のみ言及されていたナサニエル・ヘイレン、伝説の黒騎士の足跡をたどったノンフィクションという体裁をとった作品です。

 2173年6月16日、小惑星の衝突により現代世界は崩壊し、食人がごく普通に行われる荒涼たる世界が到来しました。食人自体は使い古された題材ですし、人間が人間の肉を食らうことはとりたてて異常なことでも目新しいことでもありません。東山彰良の独創的なオリジナリティは、カニバリングを経済システム化して世界の中に組み込んだことにあります。

 ナサニエルは食人が日常化した世界で、男女の二重人格を持つある食人者を連れて刑務所を脱獄します。そして、猥雑たる食人の荒野をロード・ノベルよろしく彷徨いながら、やがて様々な武勇伝をまとって伝説化されていきます。少年時代を描いた序盤から伝説が大成される終盤まで、すきなく高密度に構成された秀作です。文明崩壊後の猥雑で甘美で荒涼たる世界の描写が秀逸であるとともに、相棒(??)である二重人格の食人者や三本足の犬などのわき役たちがいい味を出しています。

 一応、単独の作品としても成立していますが、やはり『ブラックライダー』本体を読んでからの方が世界の奥行きを楽しめるでしょう。

 東山彰良さんについては、昨年のSFセミナーの際に拝見して、本会と合宿の企画を見たのでテキスト化していたんですが、前ブログの崩壊とともにぶっとばしてしまいまして、サルベージもできませんでした。惜しいことをしたなあ。

 

【関連リンク】

ブラックライダー(上)(新潮文庫)

ブラックライダー(下) (新潮文庫)

東山彰良 - Wikipedia

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