otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2016極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外)

 続けていきましょう。極私的回顧第5弾は海外のエンタテイメント小説をまとめております。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。

 【マイベスト5】 

このミステリーがすごい! 2017年版

このミステリーがすごい! 2017年版

 

 

ミステリマガジン 2017年 01 月号 [雑誌]
 

 

1、ミスター・メルセデス 

  キング初の長編ミステリ。超自然的な要素などなくても超一流のストーリーテラーは傑作を生産します。古き良きハードボイルドを思わせる主人公に、キングらしい恐怖をまとった殺人鬼。退職した刑事とシリアルキラーの攻防がスリリングに展開され、ページターナーたるキングの魅力を存分に味わえる傑作です。シリーズ化されるそうなので、来年以降のランキングもキングが賑やかすことになるのでしょう。

 

2、ミレニアム4 

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)

 
ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)

 

 続編刊行と聞いてかなりの不安を覚えていたのですが、読んでみたら前作を全く違和感なく引き継いだ上々の出来でした。まだ基本的には前作の踏襲なのでラーゲルクランツの作家性は出ていませんが、第5作ではこの作家さんの個性を押し出してくるようなので、どんな変化をつけてくるのか楽しみです。

 

3、熊と踊れ 

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

  1990年代に実際にあった事件を下敷きに、連続銀行強盗という凶悪犯罪を描いたサスペンスフルなケイパーものの秀作にして、血の絆という重厚なテーマを鋭利に描き出す極北の作品です。世の矛盾や不条理を読者に容赦なく突き付けてきますが、そのテーマ性を愉しむことがこの作品の肝でしょう。

I ratted out my bank robber brothers | Life and style | The Guardian

 

4、マプチェの女 

マプチェの女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マプチェの女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 主人公がアルゼンチンの先住民族・マプチェの末裔の女性という、希少なテーマを扱った作品です。ミステリとしての妙味はありませんが、現代のアルゼンチンが抱える闇の部分やマイノリティの問題など、社会派的なテーマが作品に通底しています。物語をあえてロジカルにまとめようとせず、歴史の禁忌を作中にばらまいて勢いにまかせた構成が、かえって作品の容赦のなさを演出しています。

 

5、ルーフォック・オルメスの冒険 

ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫)

ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫)

 

  フレンチ・ミステリのファンにはおなじみの名前ですね。もちろん再刊ですが、全編まとめての紹介は74年ぶりだそうなので、事実上の新刊といっていいでしょう。毒とユーモアをウィットをたっぷりと散種した、ホームズをネタにした戯曲でありコントです。古き良きナンセンスをワイン片手に愉しむのが乙な読み方でしょう。

 

【とりあえず2016年総括】

 翻訳ミステリは冬の時代といわれて久しいですが、もはや冬の時代を通り越して氷河期に入ってしまったそうで、苦しい状況が恒常化しているそうです。本の値段が高くなっていくのが読者としては嫌なところですね。

 とはいえ、北欧やフランス、ドイツなど英米以外の作品も大量に訳されていて、バラエティに富んでいるここ数年の状況は、2016年も維持されていました。部数や版元の利益の面はともかく、刊行された作品のラインナップを見ると作柄は良かったように思います。読者としてはとにかく買って支えるのみです。

 毎年仕事のスケジュールがやりくりできず、行くことができないんですが、今年は何とかこっちに顔を出したいなあ。

d.hatena.ne.jp