otomeguの定点観測所(再開)

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2016年極私的回顧その8 歴史・時代(書籍)

 続いて歴史小説・時代小説の書籍についてのまとめを行いたいと思います。いつものお断りですが、テキスト作成の際にamazonほか各種レビューを参照しています。

 【マイベスト5】

1、半席 

半席

半席

 

  時代小説および本格ミステリ、2つのジャンル小説としての完成度の高さから、文句なしでこの作品を1位に持ってきました。歴史・時代ミステリにおいてはミステリとしての仕掛けが甘くなることがよくありますが、秀逸なホワイダニットであるこの作品においては心配無用です。本格としてのロジックを時代小説的な人情の機微の描写に生かしている点も高評価です。主人公の人間的成長もしっかりと描かれていて、多層的な楽しみ方のできる小説です。

 

2、眩 

眩

 

  葛飾北斎の娘、「江戸のレンブラント葛飾応為の一代記です。女としての自分を捨てて父とともに絵に没頭する応為=お栄の人生は壮絶です。一度は他の絵師もとに嫁ぎながら、夫の絵に不満を抱いて離縁し、絵に没頭していきます。評価されない不遇の時期が続きますが、やがて北斎の死を乗り越えて、光と影が美しくコントラストをなす彼女独自の領域に到達します。彼女のものとされる作品が少なく、信頼できる史料も不足している人物ですが、それゆえに小説の主人公として輝いています。

 

3、三鬼 三島屋変調百物語四之続 

三鬼 三島屋変調百物語四之続
 

  2016年末に出た〈三島屋変調百物語〉の最新刊です。今回の事件は前作までに比べるとおどろおどろしさに欠けますが、人間の欲や業の深さは相変わらずです。怪異を巡る百物語が味わい深い人情ものに変化する様は安定の宮部節。5巻も早く出してください。

 

4、ドナ・ビボラの爪 

ドナ・ビボラの爪 下

ドナ・ビボラの爪 下

 
ドナ・ビボラの爪 上

ドナ・ビボラの爪 上

 

  斎藤道三の娘にして信長の妻・帰蝶。信長の正室とされながら彼女に関する史料は極めて乏しく、これまでも様々に料理されてきた人物です。しかし、彼女を道三と瓜二つの醜女にし、さらには妖魔に変異させて壮大な伝奇小説を織り上げるという、ここまでぶっ飛んだ作品はこれが初めてでしょう。多数の伏線をばらまきながら、虚実が入り乱れた複雑なプロットが展開されます。そして、奇想に満ちたどんでん返しのラストの迫力も見事です。

 

5、闇医者おゑん秘録帖 - 花冷えて  

闇医者おゑん秘録帖 - 花冷えて

闇医者おゑん秘録帖 - 花冷えて

 

  闇医者おゑんは女性の堕胎専門医です。前作同様、おゑんのもとに駆け込む女たちの人生とおゑんの思想が交錯します。物語全体に闇の帳が下りていて、人間の罪や業を容赦なく暴いていきます。あさのあつこの作品の中でも最も重苦しい小説ですが、救いを描かない潔さが物語を引き締め、作品の魅力を増しています。時代小説ですが現代の日本にも通じるテーマ性・批評性を備えており、もっと評価されていいシリーズだと思います。