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otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・文化評論・思想・社会科・国語表現・性文化・スポーツ観戦・科学・飲み食い・与太話 【一部、性的に過激で頭のおかしな記事があります】

2016極私的回顧その10 国内文藝

 海外文学に続き、国内の文藝のまとめにいきたいと思います。いつものお断りですが、テキスト作成の際にamazonほか各種レビューを参照しています。

 【マイベスト5】

1、大きな鳥にさらわれないよう 

大きな鳥にさらわれないよう

大きな鳥にさらわれないよう

 

 SFでも幻想文学でもある作品ですが、あえて文藝の1位にに持ってきました。美しくはかない人類衰退の歴史が、連作短編を通じて静謐に描かれます。穏やかな日常の描写が、世界が終末に向かうカタルシスをかえって増幅させているという印象です。奇怪に細分化された世界の真相が読者に開示され、物語が終わるとき、美しくそして禍々しい川上弘美の人類愛に満ちたビジョンが立ち上がります。

 

2、ビビビ・ビ・バップ 

ビビビ・ビ・バップ

ビビビ・ビ・バップ

 

 フォギー復活、万歳。

 SFでもミステリでもある作品ですが、あえて文藝に入れました。サイバーパンク的に日本の20世紀を脱構築した小説です。SFやミステリのガジェットを散種しつつ、先行作品へのオマージュやリンク、果ては過去の自分の作品へのリンクまでも張り巡らせる、サービス精神が最高です。作者の深いジャズ愛に敬意を払いつつ、適度に酩酊しながら読むべき作品です。 

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)

 

  

3、コンビニ人間 

コンビニ人間

コンビニ人間

 

  2016年は村田沙耶香が大活躍した年でした。コンビニのマニュアルに支えられた人格を戯画的に描き、社会通念の解体を試みた実験作です。『消滅世界』もまた実験作であり、性とジェンダーと家族が解消された不毛な未来世界を描いた作品でした。 『星が吸う水』以降、村田沙耶香はSF的・メタ的な物語を構築してきましたが、彼女の豊饒な力は一つの極みを迎えているようです。

消滅世界

消滅世界

 

 

星が吸う水 (講談社文庫)

星が吸う水 (講談社文庫)

 

 

4、ひょうすべの国 

ひょうすべの国――植民人喰い条約
 

 自由貿易に毒され、世界的企業の利益追求に蹂躙された近未来の日本が舞台の作品で、笙野頼子の一貫した政治姿勢は健在です。トランプの大統領就任でTPPがぶち壊されたため、笙野頼子の未来予測はいい意味でも悪い意味でも外れました。また、過酷な状況を力強く生き抜く女性の姿を2代にわたって生き生きと描き、フェミニストとしての矜持も示しています。

 

5、ジャッカ・ドフニ 

ジャッカ・ドフニ  海の記憶の物語

ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語

 

  鎖国下の日本と現代とを交錯させながら、アイヌが有するアイデンティティを浮かび上がらせていく力作です。アイヌの側から見た歴史描写でありながら客観的な視点が貫かれており、津島佑子の視野の広さとバランス感覚がうかがえます。やはり病死が惜しまれます。今さらではありますが、謹んで故人のご冥福をお祈りします。

訃報:作家の津島佑子さん死去68歳 太宰治の次女 - 毎日新聞

津島佑子 - Wikipedia

 

【とりあえず2016年総括】

 不作の年でした。寛容さと想像力を欠いた反知性的言説が跋扈し、思考の容量がどんどん失われている中、マンガ的な現実を痛烈に批評したり戯画化したりする、エッジの利いた小説が求められているはずです。しかし、残念ながら、2016年は高い批評性を有する作品にほとんど出会えませんでした。

 結局、SFやミステリなどのジャンル小説的な想像力を用いた作品が上位に並びました。他ジャンルへの架橋は読者としてもちろん歓迎です。しかし、ジャンル境界的な作品が上位に来たということは、つまり2016年の国内文藝の枢軸にろくな作品がなかったということです。2017年は、反知性主義者どもを鋭くえぐる、切れのある作品との出会いを期待したいです。

【せめてこれくらいの鋭利さは欲しいなあ】 

ジニのパズル

ジニのパズル