otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・社会科・国語表現・サイエンス・スポーツ観戦・性文化・料理・お酒 【一部、性的に過激で頭のおかしな記事があります】

2017年極私的独白その21 ファンタジー(国内)

 極私的回顧第21弾は国内のファンタジーです。海外ファンタジー同様、アダルト・ファンタジーおよび児童文学のファンタジー作品についてのまとめです。ライトノベルのファンタジーについてはライトノベルの項目をご参照ください。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。

 

otomegu06.hateblo.jp

 

【マイベスト5】

 

SFが読みたい!2018年版

SFが読みたい!2018年版

 

 

 1、紐結びの魔道師 

紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

紐結びの魔道師 (創元推理文庫)

 

  現在の日本の本格ファンタジーのフロントランナーといえば極私的には乾石智子。昨年の回顧の繰り返しですが、文章そのものに幻想をまとわせて読者と神秘を架橋できるファンタジー作家は、現役の作家では彼女だけでしょう。文章から立ち昇る香気のなんと甘美なことか。純粋な新刊ではありませんが、〈オーリエラント〉の最新刊を1位に持ってきました。オーリエラントの魔道師は闇を抱いた連中ばかりですが、この本の主人公である紐結びのリクエンシルはやたら明るいキャラが売りです。闇と不可分であるオーリエラントの魔術において、リクエンシルが光と幸福を追求する姿は、逆説的で求道的ですが人間味に溢れています。魔術が技術的に試行錯誤を繰り返しながら発展していく精緻な設定もよく、多幸感にあふれた優しい短編集です。

 

2、宝石鳥 

宝石鳥

宝石鳥

 

 第2回創元ファンタジイ新人賞受賞作です。南の島における新女王即位にまつわる連作短編集で、宝石鳥の伝説を巡る神秘なるものの描写が新人離れした幻想性および美しさを有しています。また、女王即位を巡る世代の更新、神と人間の異類婚、生命の根源、芸術の有意性など、複数の主題が扱われていて、物語に厚みを与えています。語りにおいて意図的に読者を攪乱する(??)時代や視点の移り変わりも巧み。今後が楽しみな、力のある新人作家の登場であるといえるでしょう。

 

3、〈サラファーンの星〉 

盗賊と星の雫 サラファーンの星 (創元推理文庫)

盗賊と星の雫 サラファーンの星 (創元推理文庫)

 
石と星の夜 サラファーンの星 (創元推理文庫)

石と星の夜 サラファーンの星 (創元推理文庫)

 

  2014年の『星の羅針盤』以来、ようやく〈サラファーンの星〉四部作の2巻・3巻が出版されました。『石と星の夜』から物語が動き出し、多視点からダイナミックな展開が語られています。重層に組み上げられたプロットの構築が巧みで、激しい戦乱と静謐な日常との対比が物語に絶妙な陰翳を与えています。物語のテーマは世界の破滅と人間性の美しさ。重厚な作品ですが読後感が清々しいのは、透明感あふれる文章が眩しさ・瑞々しさを与えているからでしょう。

 

4、〈封魔鬼譚〉

封魔鬼譚(1)尸解

封魔鬼譚(1)尸解

 
封魔鬼譚(2)太歳

封魔鬼譚(2)太歳

 
封魔鬼譚(3)渾沌

封魔鬼譚(3)渾沌

 

  児童文学のファンタジーその1。宋の時代を舞台にしたチャイニーズ・ホラー・ファンタジーで、道士の少年少女の明るいキャラクターと、アップテンポなストーリーが特徴で、軽妙なアクションも見所です。ポップな1巻から重厚な3巻へと、だんだんと重層なテーマ性があらわになってきますが、リーダビリティは落ちないのでご安心ください。アダルト・ファンタジーとして見ると食い足りないところもあるかもしれませんが、児童文学としては、余計な枝葉を切り捨てた、シンプルで良い仕上がりになっているといえるでしょう。

 

5、〈こそあどの森の物語〉 

岡田淳こそあどの森の物語完結セット(全12巻)

岡田淳こそあどの森の物語完結セット(全12巻)

 

 今や小学校の図書室には必ず並んでいるといわれる〈こそあどの森〉シリーズが、20年目にして完結しました。最終巻でもいつもの通り、穏やかな事件が起きて双子が解決して団円を迎えるという、安定した構成でした。自分の分をわきまえ、欲に突っ張ることなく、自然を大切にする・・・シンプルで大切なメッセージがいっぱい詰まったシリーズです。

「こそあどの森の物語」シリーズ | 絵本ナビ

シリーズ20周年記念!!「こそあどの森の物語」シリーズ岡田淳さんインタビュー(1/3) | 絵本ナビ

「こそあどの森の物語」完結記念 岡田淳さんトークセッション&サイン会 | 株式会社 理論社 | おとながこどもにかえる本、こどもがおとなにそだつ本

 

【2017年とりあえず総括】

 2016年に引き続き、アダルト・ファンタジー、児童文学のファンタジーともにまずまずの作柄でした。異世界のハイ・ファンタジーが活況である点も2016年と変わらず。アダルト・ファンタジーでは異世界を重厚に描く骨太なファンタジーが、児童文学では子供向けのポップなハイ・ファンタジーが主流だったように思います。しかし、これだけハイ・ファンタジーが続いてしまうと食傷気味になるので、現実世界との接点を持ったエブリデイマジックもそろそろ読みたいところです。ハイ・ファンタジー一辺倒の流れに、やや停滞感も感じた一年でした。

 残念ながらアダルト・ファンタジーの作家層はまだまだ薄いのが現状です。新人賞の数が少なくて作家の供給も限られているので、2018年にいきなりこの状況が改善される可能性は低いでしょう。しかし、ファンタジーがもっと盛り上がり、新しい作家をもっともっと生み出せるようになれば、日本におけるジャンル・ファンタジーの地位も上がるはずです。祈・マイナー文学からの脱却。祈・SFやミステリのサブジャンル扱いからの脱却。祈・児童文学の独りよがりの視点の脱却。

創元ファンタジイ新人賞 | 東京創元社

日本ファンタジーノベル大賞 | 新潮社