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2018SFセミナーレポートその5 ル・グィン追悼

 SFセミナーレポート第5弾は、合宿企画で小谷真理さん・巽孝之さんが主催されていた「ル・グィン追悼」です。

 

ゲド戦記 全6冊セット

ゲド戦記 全6冊セット

 
影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

 

  

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399)

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399)

 
闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))

 
所有せざる人々 (ハヤカワ文庫SF)

所有せざる人々 (ハヤカワ文庫SF)

 
どこからも彼方にある国 (YA Step!)

どこからも彼方にある国 (YA Step!)

 
オールウェイズ・カミングホーム〈上〉

オールウェイズ・カミングホーム〈上〉

 
オールウェイズ・カミングホーム〈下〉

オールウェイズ・カミングホーム〈下〉

 
始まりの場所 (海外SFノヴェルズ)

始まりの場所 (海外SFノヴェルズ)

 

  

ギフト 西のはての年代記? (河出文庫)

ギフト 西のはての年代記? (河出文庫)

 
パワー 上 西のはての年代記? (河出文庫)

パワー 上 西のはての年代記? (河出文庫)

 
ヴォイス 西のはての年代記? (河出文庫)

ヴォイス 西のはての年代記? (河出文庫)

 
パワー 下 西のはての年代記? (河出文庫)

パワー 下 西のはての年代記? (河出文庫)

 

 

ラウィーニア

ラウィーニア

 

アーシュラ・K・ル・グィン氏死去

アーシュラ・K・ル=グウィン - Wikipedia

Kotani Mari (@KotaniMari) | Twitter

小谷真理 - Wikipedia

慶應義塾大学文学部英米文学専攻巽ゼミ公式ホームページ

Takayuki TATSUMI (@t2tatsumi) | Twitter

巽孝之 - Wikipedia

SFセミナー2018企画紹介 - SF SEMINAR

SFセミナー2018レポート

 ル・グィンに関して書籍を貼りつけていくときりがなくなっていきますが、これくらいにしておきましょう。小谷真理さん・巽孝之さんと私に多くの影響を与えてくださった方によるトーク、そして小谷さんのフェミニズム関連のトークだったので、私の思想遍歴の原点に還るような厳かな気持ちになりました。私が最も影響を受けた思想家・批評家は間違いなく小谷真理であり、「サイボーグ宣言」「女性状無意識」に出会わなければ、今の私は絶対にいなかったわけですから。

 上記にリンクを貼った大野万紀さんのレポートが非常に的確なので、参考にさせていただいております。内容のかぶる部分についてはご容赦いただければ幸いです。

 ル・グィンへの黙祷から企画が始まり、まずは参加者がそれぞれ自分とル・グィンとの出会いについて語るという流れになりました。私は、小学生のころに『ゲド戦記』を読んだが、ファンタジーとしての物語を楽しみつつも、内容を正確に理解しきれずもやもやとしたものが残った、という話をしました。上記リンクにもありますが、大野さんからケイト・ウィルヘルムやジョアンナ・ラス、マッキンタイアの話が出て、1970年代当時の女性SF作家たちの話になったんですが、バトンが小谷さんに渡されると、やはりスイッチが入ってしまったようで、場のテンションが一気に上がりました。 

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

翼のジェニー〜ウィルヘルム初期傑作選 (TH Literature Series)

 
ゴースト・レイクの秘密 (Mystery paperbacks)

ゴースト・レイクの秘密 (Mystery paperbacks)

 

  

鳥の歌いまは絶え (1982年) (サンリオSF文庫)

鳥の歌いまは絶え (1982年) (サンリオSF文庫)

 

ケイト・ウィルヘイム - Wikipedia   

テクスチュアル・ハラスメント

テクスチュアル・ハラスメント

 
The Female Man

The Female Man

 

ジョアンナ・ラス - Wikipedia 

夢の蛇 (ハヤカワ文庫SF)

夢の蛇 (ハヤカワ文庫SF)

 
太陽の王と月の妖獣〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

太陽の王と月の妖獣〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 
太陽の王と月の妖獣〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

太陽の王と月の妖獣〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

ヴォンダ・マッキンタイア - Wikipedia

 《ユリイカ》のル・グィン特集で小谷さんが触れていた、アーシュラとティプトリーの往復書簡の話がメインでした。最初、ティプトリーは女性であることを隠して、SFに詳しくてかっこいいちょい悪オヤジとして文通をしていたとのことです。そして、アーシュラはそのちょい悪オヤジに魅力を感じて、かなりいちゃいちゃしていたとのことです。そのため、ティプトリーが実は女性であると分かったとき、やはり大きなショックを受けたようです。ティプトリーは女性としてのアーシュラを信頼していたので、真実を告白する手紙を書いたのですが、いろいろと心労があったのか、生来のうつ病を悪化させてしまいました。そして、うつ病のためにティプトリーと連絡が取れなくなっている間、アーシュラがふさいでしまうなど、行き違いもあったようです。とはいえ、アーシュラはまじめな性格でやっちゃったことには責任をとる人だし、ティプトリーもアーシュラに対する信頼があったので、時間がかかりながらもお互いに立ち直って関係を修復していったようです。ジョアンナ・ラスはティプトリーの女バレにも泰然としていたそうですが、ジョアンナはタフな女性だったということでしょうか。  

20世紀SF〈4〉1970年代―接続された女 (河出文庫)

20世紀SF〈4〉1970年代―接続された女 (河出文庫)

 
故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)
 
星ぼしの荒野から (ハヤカワ文庫SF)

星ぼしの荒野から (ハヤカワ文庫SF)

 
老いたる霊長類の星への賛歌 (ハヤカワ文庫SF)
 
たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

たったひとつの冴えたやりかた 改訳版

 

ジェイムズ・ティプトリー・Jr. - Wikipedia

Letters to Tiptree

Letters to Tiptree

 

  セミナーの後、『Letters to Tiptree 』を取り寄せて読んでみましたが、確かにめちゃめちゃ面白かったです。ティプトリーのちょい悪オヤジっぷり、ラブレターでのいちゃいちゃ、ティプトリーが女バレしてからの心情の交錯など、SFファンにとっての読みどころが各所にばらまかれており、ツッコミどころ満載でした。ティプトリーが実はレズビアンだったのではないかとジョアンナ・ラスが指摘していた、という話が小谷さんから出ていました。ティプトリーの幼少期に仲のいい友人が死んで、自らのレズビアン性を封じてしまったのだそうです。確かに、女バレしてアリスになってからのティプトリーとアーシュラのやりとりからは、レズビアン性を感じることもできると思います。アーシュラはアメリカの上流階級の出自で超がつくほどのお嬢さんでモラリストだ、と巽さんが話していました。出自の違いなどに伴うアリスとアーシュラの視点の違いは、読んでいて面白いものですが、胸を刺すような痛みを誘う箇所もありました。でも、互いの強い信頼は最後まで揺るがなかったようで、読後感は非常に清々しかったです。 

 小谷さん曰く、ル・グィンティプトリーが他界したから1980年代にSFに還ってきたのではないかとのことです。二人は仲が良かったけれどもライバルでもあったのです。ル・グィンはジャンルを超えて評価されていた人であり、SFから離れて「文学的情事」を行っていた時期もありました。一方、ティプトリーは自分の人生と向き合うSFを書いていました。ル・グィンが「文学的情事」を行っている間、彼女の中におけるSF的な核をティプトリーが代替していたのかもしれません。しかし、ティプトリーの死とともに、ル・グィンの精神におけるSF的な核が喪われ、それを取り戻すためにSFに回帰したのではないかとのことです。また、ポストコロニアルという観点で見れば、ティプトリーがアフリカおよび黒人に、そしてル・グィンネイティブアメリカンに向けていた視座は、同じ位相のものだといえるかもしれません。

 この他にも、『ゲド戦記』のアニメ化の話は実はマッキンタイアがけしかけたとか、『闇の左手』が「セックスとジェンダーが区別されていない」と批判されたが実はセックスとジェンダーの区別について極めて緻密に構成されているという分析をル・グィンに話したら非常に喜んでいたとか、オルタナファクトやオルタナヒストリーに関して《ガーディアン》でトランプと一緒くたにされたので「真実の改竄と改変は違う」と怒っていたとか、小谷さんがせっかくル・グィンの肉声テープを持っていたけど聴衆の笑い声しか聞き取れずテープは劣化するので早いところデジタル保存しましょうということになったとか、面白い話がいろいろありました。

 また、〈ゲド戦記〉4~6巻の解釈についても議論になりましたが、『ゲド』外伝はほぼ肯定的に評価されていました。『ゲド』外伝は『果しなき流れの果に』のじじいばばあの茶飲み話だ、という指摘がありましたが、こういうネタで笑えるのはSFファンならではですね。 

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

果しなき流れの果に (ハルキ文庫)

 

  私も〈ゲド〉4~6巻については肯定的にとらえる立場です。1~3巻を純然たるファンタジーとして神話的・魔術的にのみ評価してしまうと、外伝でアースシーに政治性が持ち込まれたことに対する反発が出てくるかもしれません。しかし、ル・グィンフェミニストとしての遍歴・変容を踏まえて〈ゲド〉外伝を理解しないと、ル・グィンが内的な必然から4~6巻を書いたという理解が抜け落ちてしまいます。《ユリイカ》の上橋菜穂子荻原規子の対談には、フェミニスト及びSF作家としてのル・グィン理解が不足している印象を受けました。やはりSFやフェミニズムの視座を入れないと、〈ゲド〉外伝の正確な解釈はできないと思います。 

帰還―ゲド戦記〈4〉 (岩波少年文庫)

帰還―ゲド戦記〈4〉 (岩波少年文庫)

 

 

ドラゴンフライ アースシーの五つの物語―ゲド戦記〈5〉 (岩波少年文庫)

ドラゴンフライ アースシーの五つの物語―ゲド戦記〈5〉 (岩波少年文庫)

 

  

アースシーの風―ゲド戦記〈6〉 (岩波少年文庫)

アースシーの風―ゲド戦記〈6〉 (岩波少年文庫)