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『真夜中の太陽』短評

 毎度毎度の遅ればせレビュー、今回は先月発売のハヤカワ・ミステリ『真夜中の太陽』の感想です。

  

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

真夜中の太陽 (ハヤカワ・ミステリ)

 

  翻訳ミステリー大賞を受賞した『その雪と血を』に次いで、ジョー・ネスボノワールがハヤカワ・ミステリから刊行されました。 両者は同じ世界観の作品であり、登場人物や組織などに共通点があります。『真夜中の太陽』は『その雪と血を』に比べると短いですが、ノワールとして、またサスペンスとして質の高い作品です。翻訳の文章がシンプルで読みやすく、紙幅が適度なボリュームなので、ジョー・ネスボ入門としても適した作品だといえるでしょう。

  ノルウェー北部のサーミ人が暮らす地域は、北極圏であるため、夏の間は白夜となって太陽が沈みません。極北の風土とサーミ人の文化が独特の抒情的な世界観を形成しており、そこに暴力・愛・信仰など複数のテーマが絡み合いながら、物語は緊張感を持って流れていきます。また、主人公・ウルフは組織に追われる身であり、いつ殺されるかもしれないという緊張感が物語にカタルシスを与えています。その一方で、ウルフのダメ男ぶり、少年との心の交流、双葉山が登場する的の外れたユーモア(??)など、緊張感をやわらげる要素も作中にばらかまれています。この適度な力の抜け具合は『その雪と血を』にも共通した特徴であり、作者の持ち味(??)といえるでしょう。また、物語の結末では、一見強引な展開が、読者をいい意味で裏切るサプライズになっています。読者の琴線に触れるという点では前作以上の出来だといえるでしょう。