otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2018極私的回顧その1 ライトノベル(文庫)

 すっかり遅くなってしまいましたが、当ブログのメインコンテンツ(??)、2018年度の極私的回顧の文芸・文化などの部を開始いたします。いつも通りかなりの長丁場になりますが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。一昨年から『このラノ』が文庫と単行本・ノベルズの2つに分かれましたので、ライトノベルの回顧も文庫と単行本部門に分けました。2018年もその区分けを踏襲します。なお、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。

【マイベスト5】

otomegu06.hateblo.jp
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このライトノベルがすごい! 2019

このライトノベルがすごい! 2019

 

  まずはマイベスト5から。

 

1、やがて恋するヴィヴィ・レイン 

  若者たちの数奇な運命が交錯する戦記ファンタジーが遂に完結しました。ヴィヴィはじめ少年少女の細やかな心情描写や愛憎劇から、戦略・戦術入り乱れる大規模な戦闘、権謀術策の飛び交う政治の有様、そして三界統一へと至る果てしない歴史のうねりまでを鮮やかな大団円で描き切った、作者の骨太な筆力が素晴らしいです。これぞ王道のジュヴナイル。物語る力に溢れたこの作品を、2018年のベストワンに推したいと思います。三界の母に乾杯。

 

2、 二十世紀電氣目録

  粋な京ことばと京都の風土が生き生きとにじみ出す、京都と滋賀を駆け抜ける明治恋愛絵巻です。若者たちの瑞々しい恋愛や京都の風土を愉しむ小説であるとともに、電気にかける主人公たちの思いや科学的なアイデアはレトロなSFの匂いも漂わせていて、多彩な読み方のできる佳作です。アニメ化に向けて動き出しているので、そちらも非常に楽しみですね。

www.kyotoanimation.co.jp

 

3、地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

 

  人間の少年とゾンビの少女の恋物語です。ゾンビとしての実存のありかたに悩み、アンデッドとしての自分の運命を理解しつつもポジティヴなヒロインの姿に強く感情移入しました。先行作品を踏まえたゾンビものですがホラーやスプラッタ的な要素はあまりなく、少年少女の恋愛や心の機微が丁寧かつ瑞々しく描かれています。シリーズ化を望みたい作品ですが、作者の作風があまり電撃文庫向きではないのがネックかもしれません。私は好きな作家さんですが。 

 

4、六人の赤ずきんは今夜食べられる 

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

 

  誰もが知っている童話を題材にした、6人の赤ずきんたちを守る猟師とオオカミの怪物の対決を描いたサスペンスホラーです。怪物との戦闘描写は堂に入っていますし、疾走感と緊張感に溢れたプロットとストーリーも上質で、サスペンスとしてはよくできていると思います。しかし、読者に対するミスリードの仕掛け方に甘さがあり、裏切りが割と特定しやすいのが難点でしょう。謎解きを軸としたミステリとしては評価できる作品ではないので、ライトノベルに入れました。

 

5、特殊性癖教室へようこそ 

特殊性癖教室へようこそ2 (角川スニーカー文庫)

特殊性癖教室へようこそ2 (角川スニーカー文庫)

 
特殊性癖教室へようこそ (角川スニーカー文庫)

特殊性癖教室へようこそ (角川スニーカー文庫)

 

  2018年の変態枠はこちら。私自身がロリ&ペド&ショタをこじらせた変態ですので、登場人物の性的嗜好には非常に親近感を覚えます。また、作中で乱れ飛ぶ性癖も、私にとっては全てノーマルの範疇です。個人の嗜好を尊重し、性癖の健全な成長を貴ぶとは、なんと素晴らしい教育なのでしょう。万国の変態よ、団結せよ。 

パブリック・セックス―挑発するラディカルな性

パブリック・セックス―挑発するラディカルな性

 

 

【とりあえず2018年総括】

 まず、毎年書いていることを繰り返します。WEB小説は引き続き活況で、新レーベルも複数登場し、コミカライズやアニメ化のメディアミックスも引き続き活発で、WEBを中心に裾野が引き続き緩やかに拡大していて、ライト文芸はじめジャンルの融解は進んでおり、読者の年齢層も幅広さを増していて、ジャンル内ジャンルでは新しい領域が生み出され、横断的なジャンル把握はもはや不可能であり、旧来のレーベルからも新人賞や新人作品が活発に送り込まれ、膨大な刊行点数をさばき切るのは不可能であり、読者が各自で必死にアンテナを張っている状況が続いていて、ライトノベルというジャンル運動体の熱量は引き続き熱く、アカデミックな批評の動きも続いています。

 ここまではいつもと同じです。

 しかし、2018年は、『このラノ』のまとめ記事にもあったように、ヴァーチャルユーチューバーおよびVR/ARの登場によってコンテンツやキャラクター消費のあり方が大きな転換点を迎えた年でした。

【やはりこれをとりあげないわけにはいかないので・・・】

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本山らの📖ラノベ好きVtuber (@Motoyama_Rano) | Twitter

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 クリエイターのプロ/アマの境がますます曖昧になり、さらに膨大なキャラクターコンテンツが生産され、ファンとキャラクターのインタラクティブな通行が急速に進行して、キャラクター消費のあり方が大きく変わりました。さらに質量を増したコンテンツの奔流の中にライトノベルも位置付けられるわけですが、他のコンテンツとのせめぎあいの中でライトノベルがどのように変容していくのか。一読者としては非常に楽しみなところもあります。

 とはいえ、ライトノベルはキャラクターコンテンツの一つではありますが、あくまでその本質は小説であり文芸です。小説として魅力的で物語る力の強い作品を読みたいですし、小説としての本道を踏まえた力ある作品が支持され、淘汰の中で生き残る。ごくシンプルにそういうことだと思います。