otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2018極私的回顧その14 アニメ

 極私的回顧第14弾はアニメです。例年、商業アニメとアートアニメをまとめてランキングを作っていますが、2018年はチェックできたアートアニメの本数が少なかったこともあって、商業アニメのみになりました。また、いつものお断りですが、amazonなど関連サイトのレビューをテキスト作成の参考にしております。

 

otomegu06.hateblo.jp

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2018・1~3月・冬アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)

2018・4~6月・春アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)

2018・7~9月・夏アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)

2018・9~12月・秋アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)

 

【マイベスト5】

1、宇宙よりも遠い場所

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TVアニメ「宇宙よりも遠い場所」公式サイト

宇宙よりも遠い場所 - Wikipedia

TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』 (@yorimoi) | Twitter

 当ブログでレビュー済みの作品なので、再掲します。

 極私的には2010年代の作品の中でも頂点の1つといっていい、オールタイムベスト級の名作アニメであり、科学コミュニケーションの理想形の1つだと思います。極地観測という扱いの難しい題材について、南極の情景、観測の実際、隊員たちの日常や仕事にかける情熱など、地に足がついた描写が行われて、ヒロインたちの南極にかける強い思い・友情・成長などをコンパクトかつ濃密にまとめ、物語の起承転結と適度なコミカルさも押さえたうえで、きっちり1クールの尺にまとめきりました。作画・演出・音楽・シナリオ・構成のいずれをとっても非常に高い完成度で、素晴らしいという他ないでしょう。最後までヒロインたちのポジティブさが輝き続けた、幸福な作品でした。

 

2、リズと青い鳥

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『リズと青い鳥』公式サイト

「リズと青い鳥」公式 (@liz_bluebird) | Twitter

響け! ユーフォニアム - Wikipedia

 完成度という点においては2018年で一番の作品だと思います。演出も音響も画面もすべてが最高水準で、それら全てが凝縮されて少女たちの青春の陰翳を映し出しています。以前の〈ユーフォ〉作品よりもコミカルさやデフォルメが抑えられ、みぞれと希美のの動作や表情など細部を静かに精密に描くことで、彼女たちの心の動きがフォーカスされています。また、これまでの〈ユーフォ〉作品同様、音楽についての過剰な演出はせず、奏でる音のみでシンプルに作品世界のリアリティを定立させています。あらゆる面において精細なオールタイムベスト級の傑作。ブルーレイも発売されていますが、やはり劇場の音響で鑑賞してこその作品でしょう。

 

3、魔法使いの嫁

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魔法使いの嫁 11 (BLADE COMICS)

魔法使いの嫁 11 (BLADE COMICS)

 
魔法使いの嫁 10 (BLADE COMICS)

魔法使いの嫁 10 (BLADE COMICS)

 

TVアニメ『魔法使いの嫁』公式サイト – 2017年10月より放送開始、TVアニメ『魔法使いの嫁』公式サイト

魔法使いの嫁 | MAGCOMI(マグコミ)

ヤマザキコレ『魔法使いの嫁』

魔法使いの嫁 - Wikipedia

原作まほよめ公式@マンガドアで全話配信中! (@magus_bride) | Twitter

TVアニメ『魔法使いの嫁』 (@mahoyomeproject) | Twitter

 この作品もレビュー済みなので再掲します。

 劇場版からの道程に一区切りがつきました。ファンタジーアニメとしてオールタイムベスト級の傑作になったといっていいでしょう。記号的な順列組合せに過ぎないファンタジーまがいのアニメが跋扈する中、この作品には、本来、ファンタジーという文学ジャンルが有する、人間の神話的な想像力や元型を揺り動かす力が溢れていました。ファンタジーとしての強度が限りなく高く、翳の世界のありようを具象化し、神秘や怪奇そのものの香気を画面にまとわせることに成功した稀有な作品です。

 

4、やがて君になる

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やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(6) (電撃コミックスNEXT)

 

TVアニメ「やがて君になる」公式サイト

やがて君になる - Wikipedia

『やがて君になる』特設サイト | 月刊コミック電撃大王公式サイト

やがて君になる【公式】TVアニメBlu-ray&DVD好評発売中! (@yagakimi) | Twitter

 すみませんがこれも再掲で。

 2018年は百合物件の当たり年でしたが、そのとどめがこれでしょう。原作コミックの繊細な描写をきっちりと取り込んだうえで映像独自の演出の工夫が随所に見られて、完成度の高い百合アニメとなりました。入間人間のノベライズも原作をやわらかく飛翔させるような素晴らしい出来栄えで、小説単体としても完成度の高い作品になっています。2期は当然期待しておりますが、佳境を迎えている原作の行方がすごーく気になりますので、まずはそっちですね。

 

5、ペンギン・ハイウェイ

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ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

 
ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

 

映画『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト

ペンギン・ハイウェイ - Wikipedia

映画『ペンギン・ハイウェイ』公式 (@pngnhwy) | Twitter

 ほんとに申し訳ありませんが、これも再掲で・・・。

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 映画を理解するために、まず原作小説とレム『ソラリス』を読みましょう。それから感想をまとめた方が、間違いなく作品理解が深まります。SF的な寓意や思弁を理解しないと、映画/小説『ペンギン・ハイウェイ』を正確に評することはできないと思います。私が読んだ中では映画パンフの大森望さんのレビューが最も的を射た解説になっていますので、そちらを参照することをお勧めします。

 小説『ペンギン・ハイウェイ』は、他の森見作品にも見られるようなケレン味溢れるキャラクターや文章や土着的(京都的??)ファンタジーの要素を有しつつも、レム『ソラリス』に見られる科学的検証(ソラリス学)・ファーストコンタクト・科学的寓意・精神変容・世界と人格の融解と侵食・ホムンクルス・異質な知性・・・などの種種の思弁が森見流にアレンジされ、コミカルでポップでキュートなジュヴナイルとして定立した作品です。『ソラリス』の影響を受けた作品はいくつもありますが、小説『ペンギン・ハイウェイ』はそれらの一群の中でも最も優れた作品の一つだと思います。そして、極私的には森見登美彦の作品の中でも最も好きな作品です。また、数あるスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)の中でも思弁が非常に明快で明晰な作品なので、SFに親しみのない読者にもお勧めできる小説です。
 小説『ペンギン・ハイウェイ』は、ジュヴナイルとして、主人公・アオヤマ君とお姉さんのキャラが分かりやすく「立って」いますし、ストーリーも単線的で、かつ起伏がしっかりしているので、大筋では映像化しやすい作品だといえるでしょう。「おっぱい」「おねショタ」「科学少年」「さわやか」など、WEB上に溢れる『ペンギン・ハイウェイ』の表層をとらえた感想の群れは、コロリドのスタッフが小説のストーリーをうまく映像化できたことを示しています。過去のコロリドの作品は、映像表現には秀でていても、世界設定やストーリーやセリフ回しなどにおいて甘さの見られるものばかりでしたが、今回、強力な原作を使ったことで、ようやく映像表現と物語・脚本のバランスが取れて、コロリドの作品が恐らく初めてエンタテイメントとしての高い強度を獲得しました。
 しかし、『ペンギン・ハイウェイ』の映像化には、表層的な物語やキャラクターの構築だけでなく、科学的寓意や思弁の映像化という難題があったはずです。その中でも難関は、コーラの缶がペンギンに変わる場面と、物語終盤のペンギンパレードおよびアオヤマ君の深層心理=海の中に入ってからの世界の果ての描写、だったと思います。幸い、これら2つは鮮やかに表現されていました。特に、アオヤマ君の深層心理=世界の果てを正攻法の映像表現で描き切ったことは素晴らしいと思います。過去、科学的・SF的な思弁や寓意などについて、原作とは別の単純化した解釈をとったり、代替の映像を流してお茶を濁そうとしたりする作品もありましたが、今回の映画におけるペンギンパレードの美しさと力強さは際立っており、コロリドのスタッフの表現者としての矜持を強く感じました。繰り返しですが、映画『ペンギン・ハイウェイ』は、抽象的な寓意や思弁を正面切って映像化することに成功し、かつ上質のエンタテイメントとして結実した、稀有な作品だと思います。過去の森見アニメとはかなり毛色の違う作品ですが、森見アニメにまた一つ愉快な傑作が加わったといえるでしょう。

 

【2018年とりあえず総括】

 2017年の回顧では不作と総括しましたが、2018年はTVアニメにも映画にもお気に入りの作品があったので、とりあえず極私的には悪くない年という印象でした。しかし、TVアニメは期によって出来不出来のムラがありましたし、映画も大作級と呼べるのは『リズ』くらいで飛び抜けた作品が少なかったので、総括すると平年並みかわずかに不作という作柄になると思います。2017・2018と不完全燃焼が続いているので、今年こそ傑作にたくさん出会いたいのですが、今期の冬アニメを観ているとあまり期待できないような気がします・・・。

 きちんとチェックしきれなかったこともあり、アートアニメにはインパクトのある作品を見つけられませんでした。2019年はなんとか時間を作ってアートアニメも追い切りたいものです。

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