2019極私的回顧その27 SF(国内)
極私的回顧第27弾は国内SFについてのまとめです。毎度のおことわりですが、SFにジャンル分けできるものでも、作品によっては近接ジャンルのファンタジー・幻想文学などに配置している場合があります。また、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2018極私的回顧その19 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その19 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その19 SF(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、 天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ
21世紀を代表する大河SFの完結。全17巻という紙幅をもってこそ到達しうる稀有壮大な叙事詩にしてそのビジョン。ボリュームだけで比較すればこの作品を越える小説はごろごろありますが、一作ごとのクオリティとシリーズ全体の到達度を考えたとき、この作品のレベルに比肩するSFがどれだけあるのか。堂々たる大団円に、改めて祝杯を挙げましょう。
2、宿借りの星
凝りに凝った造語群と異形の群れ、そして壮大な設定。奇想SFとしてのツボをしっかり押さえながら、愛らしさを感じる登場人物たちが哀愁さえ漂わせる人情噺を演じており、リーダビリティがすこぶる高いです。神話的なクライマックスは静謐にして非情ですが、読後感が瑞々しく清々しいのもまた酉島伝法ゆえでしょう。
3、 宙を数える 書き下ろし宇宙SFアンソロジー
2019年もSFのアンソロジーおよび短編集がいろいろ発売されましたが、極私的にはこちらがベスト。収録された短編の粒が揃っており・・・否、すみません。ただ単に、底生生物(ベントス)に萌える女性科学者に私がなぜか萌えてしまっただけです。
4、東京の子
近未来SFですが、移民・雇用・教育など、現在の東京及び日本の都市部が抱える諸問題を浮き上がらせた、ハードボイルド的な社会派小説とも呼べる作品です。政治・経済ともにシュリンクしていく東京において、それでも前を向いて生きていく主人公や周囲の人々の姿が熱く描かれています。パルクールを素材にした疾走感のある描写も魅力でしょう。
5、パラノイドの帝国
巽孝之さんの著作を評論できるほど私は学識がないので、ランキングをつけること自体が非常に僭越なのですが、アメリカ文学から離陸して政治批評・社会批評へと飛翔し、アメリカに潜在する様々な想像力や妄想力の襞をあぶり出しています。そして、現代日本の文学やSFにも言及しつつ、文学・文芸サイドから見た歴史・社会・政治の再構成が行われており、パラノイアに満ちた現在の情況を鋭くえぐる知的興奮が溢れています。
【とりあえず2019年総括】
海外SFのコメントと同じことを書くので恐縮ですが、表向きのコメントと裏のコメントがあります。日本SFの夏は続いています。かつてないほど多くの才能がこのジャンルに集結して切磋琢磨し、水準を超えたSF作品が量産されています。そして、WEB・SNS上を含めて批評言説も活発で、日本SFが運動体としてパワフルに駆動しています。SFだからこそ描きうる思弁を2020年もたっぷりと味わえそうなので、引き続き楽しみです。
・・・と、これが表のコメントで、続いて裏のコメントです。『SFが読みたい』の某氏のコメントにもありましたが、SFという言語空間への篤い信仰は大切です。ジャンル小説である以上、SFとしての完成度が作品の評価軸であることは確かです。でも、小説としての評価軸ってそれだけではないですよね。ミステリとして青春小説として性表現として文藝として幻想文学として完成度が高いとはいえない作品たちが、「SFだから」という免罪符(??)のもとにSFジャンル内で高評価を受けているけど、それでいいんですか? 小説としての完成度を問うなら、複眼的に読まなきゃいけないんじゃないの? そんな感じがすごーくすごーくします。鬱屈した思いを抱きつつ、私は2020年代になだれ込むことになりそうです。