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『美しいからだよ』&『隔離式濃厚接触室』短評

 今回は、昨年12月に思潮社から発売された中原中也賞受賞の詩集、およびとあるWEB上の二人展のレビューになります。

  

美しいからだよ

美しいからだよ

  • 作者:水沢 なお
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

思潮社 新刊情報 » 水沢なお『美しいからだよ』

水沢 なお (@mizusawanao) | Twitter

水沢なお より

隔離式濃厚接触室

布施琳太郎 (@RINTARO1123) | Twitter

20200430−0504|M|note

 

『美しいからだよ』

 WEB上にはファンタジーやメルヒェンなる語をこの詩集に冠したレビューもありましたが、極私的にはもっとリアルに軸足を置いた詩集であると解するべきだと思います。ディストピアである現実に対して、詩想と現実を対置させて透き通る想像力=創造力で立ち向かう詩の群れ。身体性を備えた言語がきらびやかな鮮やかな色を帯びて、語りないし紙幅の内で乱反射しているようなイマージュ。硬質でありながらしなやかで、全体を包握するものでありながら細やかで、ここにある生を表して=顕していながら変転していて変容していて転生していて。緩急と抑揚をまとい絵画のごとく精妙に配置された語たちに誘われ、読者自身の詩的想像力が喚起される快楽。詩人の想像力と触れ合うことで日常なる頽落から、エクリチュールの軛から脱することの愉楽。物語性を帯びた詩に多彩な襞が編みこまれており、読むという行為は原初的な一個の体験であることを改めて実感できます。

 

『隔離的濃厚接触室』

 1回に1人しかアクセスできないWEB上の孤立した展覧会で、なかなか入室できない敷居の高さが室の湿度を高めています。入室とともに訪れる圧迫感と皮膚を這うぬめりとぬるさとけだるさ。不定形?? 混濁?? 混沌?? 鑑賞者が孤独であるため鑑賞者自身の感覚が高まり、怖気を誘われ、鑑賞者自身(??)の身体やら原風景やらが脳内に溢れ、諸々の色たちをまとった言葉が鑑賞者の琴線にまとわりつきます。詩と展示とが密着した輪郭の定まらないコギト。コロナ禍である今だからこそ行われた、新機軸の芸術・言語体験である好展示です。