otomeguの定点観測所(再開)

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『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究: 出来事、運命愛、そして永久革命』短評

 今回のテキストは今年2月に発売された鹿野祐嗣『ドゥルーズ『意味の論理学』の注釈と研究: 出来事、運命愛、そして永久革命』についてのレビューです。私は哲学ではなく思想の徒であり、かつドゥルージアンではなく似非サルトリアンですので、浅学かつ雑駁な感想になっているかもしれないことをご容赦ください。

  

鹿野祐嗣 - Wikipedia

 力作です。750ページという大部もさることながら、文献学的な読解を自認し、ポストモダン的なドゥルーズ解釈をコケにして東浩紀、千葉雅也、國分功一郎らをばったばったと切り捨てるのが、いや実に痛快です。喧嘩の売り方はもうちょっと考えた方がいいんじゃないかと心配してしまうのですが(笑)。(私も含めて??)これまでポストモダンや新しい実在論に属する論者たちは、思弁的実在論や新しい存在論ポストモダンあるいはそれ以降の哲学潮流の源流とドゥルーズを(安易に)位置づけ、ドゥルーズの著作を恣意的に抽出して、はじめから結論ありきで曲解を施し、過剰な演出を行ってきました。鹿野祐嗣はそれらの姿勢を非難し、古典的な文献読解に徹しているように見えます。ドゥルーズの哲学が『差異と反復』⇒『意味の論理学』⇒『アンチ・オイディプス』の流れの中で『意味の論理学』を格子の中心とした一つの体系として組み直され(というか、本来ドゥルーズの哲学は体系的であるはず)、これまで『差異と反復』や『アンチ・オイディプス』に比べて研究が進んでいなかった(=軽んじられてきた?)『意味の論理学』の哲学的価値が改めて明らかにされ、初期ドゥルーズと後期ドゥルーズ、あるいは『差異と反復』と(『意味の論理学』と)『アンチ・オイディプス』の間にある大きな隔たり及び大きな変化が明らかにされています。鹿野祐嗣が解釈するまだガタリと邂逅する以前のドゥルーズ像はポストモダンの哲学者としてのそれではなく、フレーゲスコトゥスアヴィセンナストア派などといった古典・中世哲学の延長としてのそれであり、神学的な永遠回帰のモチーフを存在論的に体系づけた形而上学者としてのそれであり、(クラインの精神分析に基づいた)まだ倒錯が深層まで及んでいない表面的な病人=詩人としてのそれであり(鹿野祐嗣は器官なき身体は『差異と反復』においては否定的なコンテクストであると解しています)、ライプニッツを基とした発生論の論者としてのそれです。鹿野祐嗣も認めていますが、ドゥルーズガタリとの邂逅以降、精神分析への視座を転回したため、『意味の論理学』に対するドゥルーズ自身の評価は低くなります。そのため、ともすれば『差異や反復』と『アンチ・オイディプス』が(すなわち初期ドゥルーズガタリとの邂逅以降の後期ドゥルーズが)混交されて、あるいは『差異や反復』よりも『アンチ・オイディプス』が(すなわち初期ドゥルーズよりも後期ドゥルーズが)重要視されて、論じられます。ポストモダンの哲学者としてドゥルーズを位置づけるなら、積極的かつ戦略的(=恣意的)に『アンチ・オイディプス』を使う議論は正しい戦い方ですが、鹿野祐嗣は文献学的に『意味と論理学』に依拠する姿勢に徹し、『差異と反復』や『アンチ・オイディプス』との体系的な連なりを架橋しつつも括弧にくくり、『意味と論理学』が本来有する人間学的な領野を切り開いているように見えます。テキストから派生する枝をただシンプルに丹念に追う、哲学的・思想的・文献学的にごくまっとうな読解と解釈と観想。この著作で行われているのはそれだけであり、それゆえに哲学的・思想的価値を帯びた著作になっています。

 ただし極私的には、私はポストモダンを許容する人間でありオブジェクト指向存在論(OOO)にシンパを感じる人間でありガタリとの邂逅以降のドゥルーズこそ正としたい人間であり戦略的(=恣意的)にドゥルーズを用いることを許容する人間なので、やはり、『アンチ・オイディプス』以降のドゥルーズをいかに戦闘的に使うかを考えたいと思います。 

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L'Anti-Oedipe

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