otomeguの定点観測所(再開)

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マンタは回遊魚ではなかった!

 おいおい、まじかよ。これは驚きました。マンタは生態に未知の部分が多いとはいえ、マンタが回遊魚だというのはごく当たり前の常識だったはずです。マンタについての根本認識が覆された、とてつもないビッグニュースです。

 

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オニイトマキエイ - Wikipedia

マンタをねらえ! | テーマダイブ|海外ダイビングツアー|ダイブナビ

 マンタはかなり広い範囲を泳ぎ回る回遊魚だと思われてきました。長距離を回遊するため、世界の多くの海域ではマンタが観察できるのはマンタが訪れる時期と決まっていたはずです。そのため、「マンタ・スポット」的な海域や海峡がクローズアップされ、観光スポットになります。そして、大規模回遊をするため、個体群間で個体の移動があり、遺伝子のやり取りがなされています・・・と、こんなことを昔から本だのWEBだので読んできたような気がしますが。

 例えば、西表島の近くにヨナラ水道という海峡があります。

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amy-travel.com

ヨナラ水道 - Wikipedia

 ここは回遊するマンタの通り道であるとして、通称「マンタウェイ」とも呼ばれていました。ここを離れてからは西太平洋を回遊しているのではないかと考えられていましたが、実は石垣島西表島付近にいたということでしょうか。しかし、それでは、12月~5月にかけて石垣島付近で見られなくなるマンタは、いったいどこに行っているんでしょうか?

 近年、バイオロギングの技術が発達して、これまで常識だと思われてきた生物の生態が事実とは異なっていた、という事例が次々に見つかっています。今回のマンタの事例もバイオロギングによる発見のようです。

日本バイオロギング研究会 - トップページ - PukiWiki

 さて、マンタが回遊魚ではなく近海を泳ぎ回る魚だったということで、マンタ保護において大切な点がいくつか考えられるように思います。

 1つは、上記のニュースでも触れられていましたが、個体群内の個体数の回復が難しいということです。マンタが回遊魚であるとするなら、ある海域でマンタをとりすぎたとしても、他の海域からマンタがやってきて補充されれば、一応は問題ないということになります。しかし、各海域の個体群が隔離されているとするなら、ある海域でマンタを大量にとってしまうと、外部から個体が補充されないので、その個体群に深刻なダメージを与えることになります。

 また、遺伝的多様性という点においても問題が発生します。他の個体群と交流があれば、遺伝子のやり取りが行われているので、大洋全体のレベルで遺伝子の保全について考えれば大丈夫でしょう。しかし、各海域ごとに個体群が隔離されているなら、個体群ごとに独自の遺伝子様式を持っているため、個体群間で安易に遺伝子のやり取りを行うわけにはいきません。つまり、ある海域でマンタが減ったから別の海域から移入するということができなくなるわけです。

 陸上の動物の事例ですが、日本のメダカやキジなどでは他地域への安易な移入が行われてきました。その結果、交雑が進んで、地域ごとの遺伝子の独自性がほぼ失われてしまいました。キジに至っては、朝鮮半島のコウライキジを安易に放鳥し続けたため、日本産との交雑が進み、本来の日本固有の遺伝子パターンを持ったキジはもう存在しないともいわれています。

 マンタは絶滅危惧種であり、人間が適切に管理して残していかなければいけない生物の一つです。さらに研究が進み、保護活動が進展していくことを期待しましょう。