シロザケの陸封
シロザケは一般的に我々がイメージする「鮭」「シャケ」にあたるもので、日本のサケ科の魚の中で最も流通量の多い種です。
【サケ科の降海型と陸封型】
サケ科の魚の特徴として、降海型と陸封型に分かれることが挙げられます。海に降って数年かけて海を回遊して成長し、性成熟したら川を遡上して産卵するのが降海型です。降海の目的は、海で多くの餌をとって体を大きくすることです。これが一般的なサケのイメージですね。対して、川に残って淡水魚として成熟し、産卵を迎えるのが陸封型です。最近は残留型という呼び名もあるそうですが、響きが好きなので当ブログでは陸封型を使うことにします。
降海型は海に降る際にスモルト化します。スモルトとはサケの体が銀色になって海水への耐性を獲得することで、浸透圧調節が可能になるので海水中でも生存できるようになります。
降海型と陸封型で成熟した個体の大きさを比較すると、その違いは一目瞭然です。産卵の際は、特にオスは降海型の方が体が大きいので有利になりますが、陸封型のオスもタイミングを見て割り込んで、子孫を残すために懸命に奮闘します。有名なのは、サクラマスの産卵に割り込んで精子を放つヤマメのオスです。
日本に生息している主なサケ類で、降海型と陸封型を比べた動画やブログのリンクを貼ってみます。
サクラマス(降海)とヤマメ(陸封)
サツキマス(降海)とアマゴ(陸封)
スチールヘッド(降海)とニジマス(陸封)
ベニザケ(降海)とヒメマス(陸封)
いろいろ探していたらカオスな動画も出てきました。こうやって交雑が行われていくのでしょうか。
サケ科魚類オタが非オタの彼女に国産サケを軽く紹介するための10種 - 紺色のひと
地理的要因で淡水に閉じ込められ、陸封型のみになるものもいます。日本だと、ヤマメの亜種であるビワマス、そして再発見されて話題になったベニザケの亜種のクニマスなどが有名です。
【降海型ばかりのシロザケとカラフトマス】
ビワマスやクニマスとは逆に、シロザケやカラフトマスはサケ類の中でもかなり進化していて、最も海洋生活に適応した種類だとされています。シロザケやカラフトマスはほぼ100%降海し、自然状態で陸封されているものは存在しません。
(サケの進化の系統図。一番上にシロザケとカラフトマスがいます)
カラフトマスについては、人為的に移入された北米の五大湖で、淡水で繁殖して世代を重ねているものがいるため、陸封型が存在しています。あくまで人の手で移入された結果なので、自然状態とはいいにくいと思います。
以前のwikipediaのシロザケの項目には、シベリアあたりに陸封個体がいるとか、英語のwikipediaだとアラスカあたりのダム湖に閉じ込められたものがいるという記述もあったんですが、根拠のない記述だったようで、現在は消えています。下記の学術情報のリンクに、国後島ラグーンノエ湖におけるシロザケの淡水長期滞在の例、および、カナダのバンクーバー島南部を流れるゴールドストリーム川の上流・ラングフォード湖でシロザケの4年魚が釣り上げられた、という例が挙げられていますが、繁殖できるまで成長したという確認はとれていないようです。
中西部釣り紀行:藤河さんのシカゴはクール−US新聞ドットコム
トロント掲示板 : 鮭が遡上してくるのが見られるよ No.14300
日本財団図書館(電子図書館) 湖沼環境の基盤情報整備事業報告書―豊かな自然環境を次世代に引き継ぐために―
【シロザケの陸封】
上の学術情報のリンクでは、人為的にシロザケの陸封を試みた例として、日本の中禅寺湖、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の野外池などの例が挙げられていますが、メスの性成熟を確認するまでには至らなかったそうです。また、東京の国立・御茶ノ水大学附属小学校に淡水ザケの剥製があるという話を見たことがあるんですが、以前剥製の画像が載っていたHPはもうなくなっているようです。
通常、シロザケが性成熟を行うには、スモルト化して海へ下るのが必須の条件とされているようです。水温の問題などもあり、淡水でシロザケの性成熟の条件を整えるのはかなり難しいようです。
イワナやヤマベはアメマスとサクラマスの陸風型と聞いてます。他にもいろいろ... - Yahoo!知恵袋
淡水でシロザケのメスの性成熟に成功し、さらに産卵して稚魚を得るまでに至ったのは、今のところ国内では3例のみです。
1例目:1996年 標津サーモン科学館
標津サーモン科学館 - 知床しべつ・日本一のサケの水族館 -
2例目:2009年 千歳サケのふるさと館(現在は改名)
淡水魚を増強!「サケのふるさと千歳水族館」が新しくなりました | 北海道Likers
3例目:2012年 富山県立滑川高校
富山県立滑川高等学校 – ~髙きを求める情熱~ ~目指すは文武両道~
その他、山形県でシロザケ淡水飼育の試みが進められているそうです。性成熟させて養殖するまでは考えていないようですが。