では、魔法少女ものの紹介は最後の2010年代に参ります。〈プリキュア〉を除くと魔法少女ものがぐっと少なくなり、アイコンとしてやや飽きられた感もあります。しかし、作品数こそ少ないですが、『まどマギ』『プリヤ』といったヒット作があり、『ふらいんぐうぃっち』『黒魔女さん』のような独特の作風の優れた作品もあり、個々の作品のクオリティを見れば非常に水準の高い時期が続いていると思います。
『魔法少女まどか☆マギカ』2011
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』2012,2013
「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」公式サイト
このブログをご覧の方に対して今さら多くを語る必要はない作品でしょう。魔法少女ものに対するアンチテーゼとして圧倒的な人気を博し、劇場版も成功しました。今なおその世界を拡大し続けている、現在の日本アニメを象徴する作品の1つです。魔法少女ものの系譜にあるというよりは、SF・ファンタジー・伝奇・ホラーなどのジャンル文芸との親和性が高く、批評性も極めて高い作品です。この作品に関しては無数の言説が散種されているので、特にここで何を書くこともないんですが、SF的な示唆のみ軽く行います。
各所で言われていることですが、『まどマギ』をSF的視点で解釈するとき、虚淵玄と神林長平との関係性に触れなければなりません。
言語論理を積み上げて思考の先の抽象に到達しようとした劇場版は、ヴィトゲンシュタイン的言語哲学を換骨奪胎して言語論理の果てにあるものを志向した神林の言語SFの落とし子といえますし。
まどかが超存在へと昇華されつつも人間との関係性を保って世界律を維持しようとするテレビ版のラストは神林SFの時間テーマの作品に類縁性を見出すことができますし、超論理を駆使して飛躍した思考の果てに超越論的なハッピーエンドに着地させるやり方は明らかに神林SFの特定作品へのオマージュですし。
神林以外では、例えば、テレビ版放送中からWEB上で騒がれたように、ソウルジェムのゾンビ的なモチーフやQBの管理主義的思想から伊藤計劃とのシンクロを見出すこともできます。先行作品による呪縛を意識して自らをオリジナルと規定しないという点では、虚淵と伊藤は同族ですし。
ここは『まどマギ』の作品論を開陳する場ではないので、これくらいに留めますが、『まどマギ』は哲学的・神学的・批評理論的言説を用いた批評の対象になりうる、極めて高い思考の強度を有した作品でした。志操をこねくり回す愉楽を味わえる魔法少女もののアニメなど、恐らくもう現れないでしょう。
『黒魔女さんが通る!!』2012
青い鳥文庫|黒魔女さんが通る!!|青い鳥文庫|講談社BOOK倶楽部
青い鳥文庫の石崎洋司による児童文学を原作とした、コメディタッチの良質のショートアニメです。黒魔女修行をする主人公・黒鳥千代子が、クラスで起きた事件を基本的には1話完結で解決していく物語でした。童話的で分かりやすい魔法の描写とコミカルな魔女・魔物たちも魅力的ですが、何といっても最大のウリは、読者公募されたものも含む5年1組の個性的な面々が繰り広げるドタバタでした。
『リトルウィッチアカデミア』2013,2015
映画『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』公式サイト
2013年にアニメミライで作成、2015年にオリジナル劇場版公開、そして2016年にテレビシリーズ制作決定と、順調にステップアップしてきました。美しい作画、王道をいく少女たちのドタバタ冒険物語、コミカルだが繊細な魔法の描写、魅力的で濃ゆいキャタクター陣、一捻りも二捻りもされたガジェットの数々。作中にアイディアをこれでもかこれでもかとぶち込むTRIGGERのワイド・スクリーン・バロックまがいの制作方法は、SFでもファンタジーでもジャンル関係なく生きています。この作品もまたベイリー御大の血を受け継いでいるのです。
禅銃(ゼンガン) (ハヤカワ文庫SF ヘ 3-1) (ハヤカワ文庫 SF (579))
- 作者: バリントン・J・ベイリー,Nathan Yodan,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/10/15
- メディア: 文庫
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これまで公開された映画のクオリティは間違いなく一級品でした。さあ、テレビシリーズは『グレンラガン』『キルラキル』『ルル子』を超えるのか。ポテンシャルではこれらのSF作品に負けていないだけに、大いに期待しながら待つことにいたしましょう。
宇宙パトロールルル子 第13話 感想まとめ : Gamers Shelter(画像元)
〈Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ シリーズ〉
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』2013
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ!』2014
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!』2015
『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!』2016
「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」公式サイト
「Fate/kaleid liner プリズマイリヤ ツヴァイ!」公式サイト
「Fate/kaleid liner プリズマイリヤ ツヴァイ ヘルツ!」公式サイト
「Fate/kaleid liner プリズマイリヤ ドライ!」公式サイト
Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ - Wikipedia
ギャルゲー史上最大の成功作〈Fate〉シリーズのヒロインの1人・イリヤを魔法少女の主人公にした、『プリサミ』『小麦ちゃん』『なのは』の系譜を継ぐスピンオフ作品です。TYPE-MOONは同人誌上がりのメーカーで、過去にセルフパロディを数多く作ってきたところなので、この作品もそれなりに面白いだろうとは思っていました。ところが、すみません。なめていました。まさかこんなに面白いとは。
『プリヤ』もセルフパロディ作品なので、スターシステムで〈Fate〉シリーズのキャラを配置しつつ、各所にギャグ、パロディ、ロリエロ、内輪ネタなどのお約束的な演出をばらまいています。これは『小麦ちゃん』が成功した要因でした。
『プリヤ』では、聖杯戦争について、カード回収というタスクを課すことでゲーム性を持たせつつ、異世界との並行的なつながりを作ることで奥行きを持たせながら、『プリヤ』としてのオリジナリティを演出しています。戦闘描写もしっかりしていて、聖杯戦争のバトルを真正面から描くことにも成功しています。こういった直球勝負の作り方は『なのは無印』の原動力となった要因でした。
お約束の演出と物語の骨格としてのドラマを両立したという点で、『プリヤ』は過去のスピンオフ作品に比べて際立った存在です。『プリヤ』はパロディ作品という位相を超えた大きな支持を得て、独自の確固たる地位を築きました。間もなく第4期が始まりますので、引き続き注目していきたいと思います。
『まじもじるるも』2014
『弱虫ペダル』の作者・渡辺航が原作のスラップスティック・コメディです。アニメで扱った原作の第1部はまだ序章に過ぎず、第2章の魔界編からシリアスになって面白くなります。ところが、テレビ版は第1部のみで切ってしまったため、結末が中途半端に終わってしまいました。そのため、アニメ単体としては評価できない作品です。2期をやれば序章として2014年のテレビ版が再評価できるはずですが、現状だと2期制作は難しいのかなあ。
『ウィッチクラフトワークス』2014
ウィッチクラフトワークス / 水薙竜 - アフタヌーン公式サイト - モアイ
ヒロイン最強系の魔法少女コメディです。主人公は男子・多華宮仄。ヘタレな仄を最強ヒロインの魔女・火々里綾火が数々の危機から守るというお話ですが、なぜ綾火が仄にべた惚れなのか、いまだに理解できません。徹底してギャグ要素が中心の物語ですが、出てくるキャラがみんな非常識な外道ばかりで魅力的なのと、繰り出されるギャグがシュールでウィットに富んでいて毒性の高いものばかりなので、飽きがきません。作者のテンションがおかしいか、頭がおかしいか、どちらかなのでしょう。もちろん全て褒め言葉です。原作のストック待ちかもしれませんが、早く2期をやってくれ。
『魔法少女なんてもういいですから。』2016
ご覧の通り、魔法少女ものを茶化したパロディでありコメディです。あくまで4コマ的なショートアニメなので、ネタを楽しめればOKです。魔法少女のパートナーの小動物が生ごみをあさっていた作品は、もう発生しないでしょう。
2015冬アニメ『魔法少女なんてもういいですから。』告知PV公開! - きゅーぽ(画像元)
かなり面白い作品ですが、つまるところネタアニメなので、肩の力を抜いてブラックユーモアとちょいエロを楽しめればOKです。
『ふらいんぐうぃっち』2016
魔法少女ものに分類されますが、日常系の系譜に乗った癒しアニメです。弘前を舞台に、魔女・木幡真琴のゆるやかな日常とあたたかな人々の姿を描いた作品で、徹底的に描き込まれた弘前の背景に、魔法の道具や動物、妖精といった様々な非日常が無理なく、しかし日常から際立つ形で溶け込んでいます。魔術の設定や描写はシンプルで実用的ながら、現実の魔術師や魔術儀式を彷彿とさせる繊細なものです。ゆるやかな日常の裏打ちとして、緻密な世界設定と描写が作品を支えています。
アニメ化の前から弘前では作品とのコラボが行われていたため、青森は大いに盛り上がっているそうです。作者も地元に住んでいますし、ネタやエロや萌えのない作品ですから、年配の方でも受容できるのでしょう。早いところ2期を作ってほしいですが、もう少し原作のストックが必要かもしれません。
【参考リンク】