参院選の選挙戦たけなわでございますが、今回は選挙に関する報道が少ないですねえ。政府・自民が「政治的中立」なるたわけたことを各所に言い渡しているせいで、ジャーナリズムが委縮しているように感じます。
【「政治的中立」を押しつける、中立ではない輩】
(総務省・政治的中立を求める文書)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000382036.pdf
自民党が学校教育に要求する「政治的中立性」は、自民党の意図に沿う強い「政治的偏向」の押しつけに他ならない
【2016参院選】「教育現場で政治的中立性確保を!」 業界団体への自民党公約説明会で - 産経ニュース
教員の政治的中立違反に罰則 自民が提言中間まとめ | 教育新聞 電子版サイト
「18歳選挙権」、教育現場では困惑も 「政治的中立」とのかねあいに悩む : J-CASTニュース
報道の政治的公平性① 「政治的中立」がなぜ「報道規制」になるのか? | ナレッジ ウォーカー 「時事散策」
スピン経済の歩き方:マスコミ報道を萎縮させているのは「権力」ではなく「中立公平」という病 (1/5) - ITmedia ビジネスオンライン
マスメディアは「中立」は無理でも「客観報道」くらいはせよ – アゴラ
いくらでもリンクは貼れますが、きりがないのでこれくらいにしておきましょう。「政治的中立」はずいぶん矛盾に満ちた言葉です。政府・自民がのたまう中立とは、つまり「反政府・反自民」を全て「中立ではない」としてぶったたくことですから、明らかに中立ではない中立です。政府寄りの報道や教育を行えば「政治的中立」になる。それは「中立」ではなく「親政府・親自民」です。
そもそも、中立ってどういう意味なんでしょうか。WEBの辞書を見てみましょう。
1 対立するどちらの側にも味方しないこと。また、特定の思想や立場をとらず中間に立つこと。
2 戦争に参加しない国の国際法上の地位。交戦国双方に対して公平と無援助とを原則とする。局外中立。「永世―」
冷戦下のスイスのような2はともかく、1は現実的にあり得ません。善悪とか法や混沌が明確に対立している世界なら話は別ですが、それはファンタジーの圏域です。
ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)
- 作者: ロブハインソー,アンディコリンズ,ジェームズワイアット,桂令夫,岡田伸,北島靖巳,楯野恒雪,塚田与志也,柳田真坂樹
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2008/12/05
- メディア: 大型本
- 購入: 6人 クリック: 60回
- この商品を含むブログ (48件) を見る
政治について考えて・発言する以上、何らかの思想や立場に則って行います。そこに思想がなければ、何も考えていないということです。政府・自民が要求する政治的中立とは、つまり何も考えずに報道する・教育を行うということです。政府に対して無批判な国民を育成しようという、権力者に都合のいい発想でしかありません。
今回の参院選から18歳に選挙権の年齢が引き下げられましたが、政治教育では「政治的中立」を保つように厳しくお達しが出ているようです。とりあえず、授業では投票のやり方だけ形式的に説明しておけばいいということでしょうか。さすがに子供をなめすぎです。政治家たちが考えている以上に、子供たちは現実の政治をリアルに、そして冷ややかに見つめています。
【しっかりと「思想教育」を行うべき】
政治教育においては、教師は自分の政治的意見や思想をしっかり語るべきです。そして、その材料に基づいて子供たちにしっかり考えさせるべきです。
例えば、原発の問題なら、自分は原発に賛成なのか反対なのか。今回の参院選なら、自分はどこの党を支持するのか、そして支持する理由も併せて。イギリスのEU離脱に賛成なのか反対なのか。安倍政権を支持するのか支持しないのか。
ただし、決して自分の思想を押しつけず、子供たちが考える材料にとどめておくことが大切です。また、ある事象を取り上げる時も、できる限り多様な・対立する視点を紹介して、子供たちに考えさせることが必要です。そして何より、多様性を許容する寛容さについて説くことが大切です。自分とは異なる意見を否定するのではなく、相手の意見をちゃんと聞いて、時には議論し・時には受け入れる寛容さを持つこと。まず教師がそれを実践しなければなりません。
多様性・対立する視点をどう紹介するかということで、いくつかサンプリングしてみましょう。歴史的に立場が対立するものを取り上げてみます。かなり噛み砕いて、小学生に向けて話をするつもりでやってみます。
【南京事件】
日本では南京事件の存在自体を否定する意見もある。しかし、例えば、ヨーロッパの通信社が日本軍が一般市民への発砲を開始したという第一報を送った打電の記録など状況証拠がいろいろあるので、南京事件の存在は全て中国のでっち上げだというのは不自然である。だから、南京事件は事実として認めなければいけないし、日本が中国を侵略したということも歴史的事実として受け止めなければいけない。
http://www.marino.ne.jp/~rendaico/daitoasenso/taigaishinryaku_nankinziken_seigikanokatei.htm
ただし、中国が南京事件について取り上げる時、犠牲者の数字を水増ししたり、本当は関係のない写真を証拠として使ったりもしているので、中国のやっていることも相当怪しいから、彼らの話を鵜呑みにしてはいけない。
南京大虐殺の死者数の信憑性/なぜ虐殺後に人口が増えているのか 【賢者の説得力】
結論として、南京事件自体は存在したが、犠牲者の数については諸説があると考えておくのが妥当だろう。
【靖国神社参拝】
本来、靖国神社は一神社でしかないから、参拝するもしないも個人の自由。これが大前提である。
ただし、靖国神社にはA級戦犯が祀られているうえに、昔、日本が戦争のために利用してきたという歴史がある。だから靖国参拝を批判する人がいるし、私も靖国参拝には反対の立場だ。そして、中国や韓国は日本に侵略された歴史があるから反発する。ただし、中国や韓国は靖国批判を政治的に利用しているから、そこは注意すること。
靖国神社に参拝する人たちは別に戦争をやりたいわけではない。きちんと平和を願ってお参りしている。靖国神社は立派な神社だし、行けば荘厳な気分になれるところだ。ただし、靖国神社の歴史観や政治的な立場、例えば遊就館の歴史展示やパール判事顕彰碑などについては、賛成の人も反対の人もいる。私は反対の立場。でも、あくまで個人の歴史観の違いだから、どちらが正しいわけではない。大事なのは、参拝する人もしない人も、お互いの立場や意見を尊重し合うことだ。
・・・と、簡単ですがこんな感じでしょうか。本業の教職ではないので稚拙ですし、大分言葉を濁していますが。繰り返しですが、一番大切なのは多様性と寛容さです。お互いのことを認めない不毛な言葉の応酬だけは避けたいものです。
【参院選関連エントリ】