2016日本SF大会 いせしまこんレポート④~サイバーパンクの部屋~
いせしまこんレポート第4弾はサイバーパンクの部屋です。2002年以来、毎度顔を出している、私にとってはおなじみの企画です。パネラーはとりにてぃさん、巽孝之さん、小谷真理さん、菊地誠さんという、これまたいつものメンバーでした。
【パネラーに関するリンク】
IN HER ZONE – Mari KOTANI Official Site
【九龍城塞とサイバーパンク】
今年の7月4日まで、品川のキャノンギャラリーで「宮本 隆司 写真展:九龍城砦 Kowloon Walled City」が開催されていました。
閉幕直前の7月2日に、巽孝之さんが「世界文学における九龍城砦」と題したトークイベントをやっていました。今回のサイバーパンクの部屋では、まずこのトークイベントの内容紹介を巽さんが行ってくれました。
上のリンク先にも紹介がありますが、宮本隆司は主に廃墟写真をモノクロで映し、社会的なメッセージを強く発信している写真家です。例えば、新宿のホームレスが形成する段ボール都市、写真展のテーマでもあった九龍城塞などが代表作で、宮本の廃墟写真はウィリアム・ギブスンにも影響を与えました。ギブスンが『ニューロマンサー』を執筆したとき、あのチバ・シティはギブスンが来日する前に書かれたものですが、退廃都市の背景には宮本隆司の影響があったそうです。
では、九龍城塞について触れていきます。九龍城塞は1993~94年にかけて取り壊された、かつて香港に存在した廃墟であり城塞都市です。現在、その跡地はのどかな自然公園や記念館になっているそうですが、かつての九龍城は文字通りの魔窟で、イギリスの力も中国の力も及ばない治外法権の地域でした。暴力や人身売買が絶えず、廃墟特有の饐えた悪臭を漂わせ、亡命者の天国ともうたわれたところです。ギーガー的な魅力をたたえたスポットですが、当時の中国もイギリスもその存在を持て余していて、中国に返還されても困るだけの代物だったようです。そのため、1994年に完全に取り壊されました。
九龍城塞の治外法権について、面白いところでは、旧共産圏で教育を受けたものの香港で免許が取れなかった歯科医たちが九龍城塞で開業していて、安くて腕のいい歯医者がいるということでも城塞は有名だったそうです。1990年には86人の歯科医が城塞内にいたそうです。
九龍城塞の退廃と混沌のビジョンは、ギブスンをはじめとする多くのサイバーパンク作家・作品に大きな影響を与えました。ここでは、ギブスンへの影響をいくつか見ていきましょう。
まず、1990年にギブスンが著した短編「スキナーの部屋」。この短編は、1989年にサンフランシスコ現代美術館の展覧会にギブスンが参加を要請されて、展覧会のパンフレット「Visionary San Francisco」に書き下ろしたものです。サンフランシスコ・ベイブリッジをホームレスたちが占拠して橋上空間を作り上げるという話で、橋上の描写には九龍城塞の影響が色濃く表れています。後の『ヴァーチャル・ライト』『あいどる』『フューチャーマチック』3部作の前哨ともいえる作品です。
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また、映画『JM』に出てくる橋が、映画における九龍城塞的な描写としては出色のものだそうです。映画『JM』は短編「記憶屋ジョニイ」が原作ですが、映画としてはポンコツな作品でした。ギブスンの脚本もダメなものだったので、ギブスンは小説家としては素晴らしいが脚本家としては大したことがないという評価になってしまいました。それでも橋だけはサイバーパンクの歴史に残った模様です。
おい、書影が違うぞ。
『あいどる』にも九龍城塞が出てきます。『あいどる』は、リアルでフロイト的な不気味の谷を超えられず、仮想の女の子を愛するしかないオタク少年の話ですが、現在でいけば初音ミクとの恋愛を描いた物語ですね。『あいどる』出版当時では、伊達杏子や芳賀ゆいあたりが連想されるところでしょう。
『あいどる』関連のSF作品をあげるとこんなところでしょうか。
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汝、コンピューターの夢 (〈八世界〉全短編1) (創元SF文庫)
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カウンターカルチャーの関連として、ツリーハウスや超芸術トマソンと九龍城塞との親和性についても語られていました。
ツリーハウスは自然と人工が交叉する不安定なオブジェともいえる建築物です。増築を繰り返してオブジェ的になった九龍城塞に、ツリーハウスの不安定さが近接するのでしょう。また、『JM』や「スキナーの部屋」に出てくる橋も、やはりツリーハウスに近接した特徴を持っているといえるでしょう。
超芸術トマソンは、赤瀬川源平たちが発見した芸術上の概念で、美しく保存されているが何の役にも立たない建築物のことです。ギブスンはこれを『ヴァーチャル・ライト』で取り上げ、ジャイアンツの助っ人・トマソンの項目で解説しました。ギブスンはダダイズムへの傾倒が強いので、ダダ的な美学である超芸術トマソンに強く感化されるところがあったのでしょう。
また、九龍城塞はギブスン以外にもゲームや映画などに様々な影響を残していますが、まず取り上げなければいけないのは、やはり、九龍城塞の名前をストレートに関した『クーロンズゲート』でしょう。20年近く前のAVGですが、いまだその尖鋭的なビジョンは色あせていません。
【サイバーパンク関連映像】
こちらも毎度おなじみ。とりにてぃさんが見つけてきたサイバーパンクっぽい映像の上映です。毎度、強引な気もしますが、ネタとしては非常に面白いものです。
(何のCMなのかよく分かりません・・・)
(サイバーパンク的MV。つーかプリパラ映画のエンディングですが)
あと、中国の近未来都市を描いた自動車のCMか何かがあったはずですが、どこの映像だったか失念してしまい、見つけられませんでした。思い出したら後日貼ります。