海堂尊『ポーラースター ゲバラ覚醒』短評
〈チーム・バチスタ〉で知られた海堂尊の新刊が出ていましたね。知人から評価を聞かれていたのでテキスト化します。以下、批判になるので未読の方はご注意ください。
【史実と異なる海堂版ですが・・・】
ゲバラの青春時代を描いた四部作の第1作だそうです。ゲバラの青年期については本人が書いたこちらの作品があります。オリジナルに忠実にいくのか、それとも翻案するのか、翻案するならどこをどう面白くするのか。そして、南米の風土をいかに描写するのか。歴史小説的視点から楽しもうと思ったのですが。
- 作者: エルネスト・チェゲバラ,Ernesto Che Guevara,棚橋加奈江
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/09
- メディア: 文庫
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残念ながら、やや期待外れでした。『モーターサイクル・ダイアリーズ』に出てくるゲバラの道行きを一応トレースしているのですが、海堂自身の解釈に奥行きが感じられず、淡々とした単なる一人称の伝記になっている印象です。小説として盛り上げるために人間関係を改変したり史実から意図的に逸脱したりしていますが、残念ながらオリジナルのゲバラのピュアさと奔放さに負けてしまっています。海堂版の美点を挙げるなら、オリジナルよりも政治性を強く描出している点ですが、これについても当時の政治状況について記した紙幅が少なく、掘り下げの浅さが目立ってしまっています。ゲバラの人物像にフォーカスをあてるより、もっと客観的視点から政治・社会状況を俯瞰しながら描いていった方が面白くなったんじゃないでしょうか。〈バチスタ〉のときだって人物像や心情描写はいまいちだったんだから。
この後、だんだん盛り上がっていくはずですが、ゲバラの革命家としての成長をうまく追っていけるのか、不安な滑り出しになりました。2巻目で挽回してくれることを祈ります。