2016極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ)
では、ライトノベルの文庫に続いて単行本・ノベルズの部門に参ります。昨日も書きましたが、昨年まではボカロ・フリーゲームなどのノベライズで立ち上げていた項目について、『このラノ』で単行本・ノベルズの部門が立ち上がったことに伴い、看板の掛けかえを行いました。その結果、昨年までならランク入りしていたノベライズ一群がほとんどベスト5圏外にいってしまいました。とりあえず本日のテキストに参ります。なお、いつもの通り、テキスト作成に『このラノ』およびamazonほか各種レビューを参照しています。
【マイベスト5】
まずはマイベスト5から。
1、居酒屋ぼったくり
酒飲みにとって居酒屋さんというのは心のオアシスです。気のいい店員さんがいて、他愛ない話を交わすことのできる常連さんがいて、他愛のない話をして気ままに酒を飲みながらめいめい盛り上がり、仕事のストレスを発散する。そんな気さくで温かい空間がそのまま小説になっています。お酒も料理もおいしそうで、小説の中で具体的に紹介してくれているのもうれしいところです。こんな居酒屋が近所にあったら間違いなく行きつけの店にします。酒飲みの習性が強く働き、1位に持ってきました。このテキストも酒を呑みながら書いております。
2、ティタン アッズワースの戦士隊
ティタン アッズワースの戦士隊 1 (アース・スターノベル)
- 作者: 白色粉末,獅子猿
- 出版社/メーカー: 泰文堂
- 発売日: 2015/10/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本来なら昨年度で紹介すべき本ですが、読んだのが今年なのでランキングに入れました。極めて古風で硬派な男の世界を描いた異彩を放つファンタジーです。200年前の世界からよみがえった英雄、主人公・ティタンがとにかく硬派。己の肉体と剣技のみで戦い抜き、仲間や亡き恋人への思いを徹底して貫く姿は、泥臭くてかっこいい漢の生き様を表しています。ライトな記号的ファンタジーがあふれる現在だからこそ、重厚なエールのようなこの作品の存在価値があるのでしょう。
3、〈忘却探偵〉シリーズ
探偵小説としては平凡な作品だと思いますが、キャラクター文法に則ったラノベとして評価するなら傑作です。つまるところ、西尾維新のミステリはキャラ文芸に属するということがよく分かる作品です。記憶がなくなることを売りにしたヒロインは何人かいましたが、今日子さんのかわいさは反則級です。作品の評価云々ではなく、ただ私が今日子さんに萌えただけです。すみません。
4、リトル ノア Tale of school days
リトル ノア Tale of school days (カドカワBOOKS)
- 作者: 岩佐まもる,吉田明彦,BlazeGames
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/02/10
- メディア: 単行本
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ノベライズからはこちらをベスト5に入れました。ヒロイン・ノアが方舟を学びの場所としていた学院時代を紐解いた前日譚で、彼女の成長と学院の人々との交流が瑞々しい筆致で描かれていて、文章も構成力もライトノベルとして高い水準に達しています。今年読んだノベライズの中では最も優れた作品だったと思います。アプリゲームをプレイしていることを前提として書かれた作品ですが、小説の中で世界設定を開示しているので、単体としても十分に楽しめる作品です。
5、魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録
魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録 獣の王はかく語りき (Novel 0)
- 作者: 綾里けいし,鵜飼沙樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/07/15
- メディア: 文庫
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魔獣が実在するファンタジー世界が舞台として、超常的な魔獣の力を用いて行われた殺人事件の謎解きというミステリ的側面が物語の骨格です。魔術的な要素をまぶしながらもトリックと論理には一貫性があるため、ライトノベル・ミステリとしての体裁は整っています。しかし、この作品でミステリ的側面よりも注目すべきは、魔獣の力に引き寄せられる人間の心の闇と、退廃に彩られた背景世界の描写でしょう。
【とりあえず2016年総括】
前回とは違う視点からの総括になります。WEBという視座から見たライトノベルの概況は引き続き安定・順調だった、というのが正しいまとめでしょう。
前回のテキストにも書きましたが、ライトノベルの主戦場がWEB上に移り、WEB発のライトノベルの単行本の市場は順調に拡大を続けているようです。WEB上と紙媒体との約束事の違いこそありますが、WEB上で一定の淘汰を潜り抜けてきた作品群なので、粗製乱造には陥っていません。ライトノベルとして一定のクオリティの作品群がきちんと供給されているのは、読者としては嬉しいことです。新レーベルが次々と出てきて刊行点数も膨大な数に渡るので、ジャンルの全てを追い切るような読書は不可能です。読者としては嬉しい悲鳴なのですが。2015年総括を同じことを書いています。つまり、WEB発小説の活況に大きな変化はなかったということです。
カクヨム - 「書ける、読める、伝えられる」新しい小説投稿サイト
文庫とのクロスオーバーになりますが、ライト文芸の動きも引き続き活発でした。『このラノ』でも指摘されていた通り、単行本もライト文芸も従来のライトノベルを外挿し、社会人向けの作品を送り出しています。1位にあげた『居酒屋ぼったくり』は酒の味が分からないと楽しめない作品ですし。『異世界薬局』は異世界ファンタジーながら作者が現実の仕事の専門性を生かした作品ですし。 仕事の機微を味わえる作品が増えるのは勤め人として嬉しい限りです。また、全体に、ライト文芸は一般文芸より心情描写や文章の構成がシンプルです。仕事の疲れをとりつつ肩肘張らずに読書を楽しむには、このくらいの文章の強度がちょうどいいと思います。
ボカロ小説・フリーゲーム小説・アプリゲーム小説などのノベライズ一群も、引き続き安定して刊行されていた印象です。以前はラノベ作家が仕事を得るためノベライズを書いていたこともありましたが、現在はノベライズ専門の作家が増えているようです。そもそも、ノベライズとは楽曲やゲームなど他のメディアとリンクさせて鑑賞・評価すべきやや特殊な小説ジャンルであり、小説は作品のピースの1つに過ぎません。そのため、ノベライズにおいて作家性が消されることは決してマイナスではありません。とはいえ、今年は例年に増して作家性のない作品が多く、作品世界を淡々と活字化しているものばかりで、小説単体としての評価が定めにくかった気がします。・・・まあ、評価できるほど読み込んでいないからこんな弱音が出るわけで、私の読書量と作品解析が不十分なだけだといわれればそれまでですね。まだまだ勉強が足りんな。