魚類など存在しない
のっけからわけの分からないタイトルだと思われますが、分類学上、魚類というグループはもはや存在しないということです。いえ、とある本のレビューのつもりなんですが。
【魚類とはただの寄り合い所帯である】
新たな魚類大系統―― 遺伝子で解き明かす魚類3万種の由来と現在 (遺伝子から探る生物進化 4)
- 作者: 宮正樹,斎藤成也,塚谷裕一,高橋淑子
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2016/10/27
- メディア: 単行本
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新たな魚類大系統―― 遺伝子で解き明かす魚類3万種の由来と現在 (遺伝子から探る生物進化 4) - つりがねそう
『新たな魚類大系統:遺伝子で解き明かす魚類3万種の由来と現在』 - leeswijzer: boeken annex van dagboek
いや、面白かったです。魚類研究者を目指す人の入門用というふれこみですが、門外漢の私のような一般の読者にもわかるようにかみ砕いて書いてあるうえ、半自伝的構成なので、遺伝子解析による分類学の変化がエキサイティングに記されているだけでなく、他の学者などとの人間臭いやり取り・エピソードも詳しく記されています。それが面白さをうまく裏打ちしています。21世紀に入ってから魚類の分類体系が大きく変わり、遺伝子解析によって新事実が次々に出てきたことは様々に報じられてきたことなので、この本で出会った新事実は特にありません。しかし、魚類の分類体系の変化についてコンパクトにまとめた著作はなかなか見当たらなかったので、まとめとしても貴重な本だと思います。
魚類というグループは分類学上もはや存在せず、脊椎動物(脊椎動物自体、脊索動物門の下位グループに過ぎないわけですが)の中の無顎類・軟骨魚類・条鰭類(ほぼ完全に昔の硬骨魚類)・肉鰭類(シーラカンス・ハイギョ・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類など四肢動物のグループ)のうち、水中生活を行ってひれをもって魚という形態をしているものの寄り合い所帯に過ぎないのだそうです。シーラカンスやハイギョは一般概念上魚類に入りますが、分類学的にはカツオやマグロより人間に近しい存在なのだそうです。魚料理を常日頃突っついている感覚だとなかなか受け入れがたいものもありますが。
できるだけネタバレを避けるべきですが、読んでいてエキサイティングだった項目を2つ挙げてみます。
【マグロ・カツオ・サバ類の爆発的進化⇒ペラジア】
20130904|学術ニュース&トピックス|東京大学大気海洋研究所
マグロやカツオなどのサバ科魚類の共通祖先は深海に棲んでいた!? -東大など | マイナビニュース
生物の高次分類群は必要?: 魚類の新規分類群「ペラジア」からはじまる系統と分類の話 - Togetterまとめ
マグロやカツオの祖先は深海魚~日経サイエンス2014年2月号より | 日経サイエンス
3年前にニュースになっていた事柄ですが、マグロ・カツオ・サバ類など15の科が単一の深海魚を祖先とする新たな1つのグループ・ペラジアに含まれ、白亜紀の大量絶滅の後にニッチを埋めるように、新生代初期に爆発的な進化と適応放散を遂げたというものです。かなり話題になった事柄ですが、この発見の経緯が人間関係なども含めて克明に記されています。ある古生物学者の貢献があって、この事実が明らかになったとのことです。
Department of Earth Sciences » Matt Friedman
【リボンイワシはいなかった】
3科の深海魚 DNAほぼ一致 姿は違うが親子と判明 - アニマルニュース
http://www7a.biglobe.ne.jp/~grafish/fb_abyssopelagic04.html
こちらは7・8年前のニュースなんですが、分類学上別の魚だとされていたトクビレイワシ科・ソコクジラウオ科・クジラウオ科が実は同じグループの幼生・雄・雌だあったという発見です。これも大きなニュースになっていましたね。これまで発見されていた標本がトクビレイワシは全て幼生・ソコクジラウオは雄・クジラウオは雌だったそうなので、伏線は貼られていたともいえますが、形態学上はあまりに三者の姿が異なるため、この展開は予想外だったそうです。
リボンイワシは好きな魚だったんですけどねえ。
Virginia Institute of Marine Science - Researchers show that three fish families are one(画像元)