2016極私的回顧その3 本格ミステリ(海外)
本年最初の更新になります。年末年始と仕事が多忙だったため、すっかり更新が滞ってしまいました。書きたいことはいろいろたまっているんですが、テキストの想を練る時間も書く時間もなかなか取れない状態です。まずはじわじわ極私的回顧を進めていきたいと思っておりますので、飽かずお付き合いいただければ幸いです。
いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
【マイベスト5】
では、まずマイベスト5から参ります。
1、二人のウィリング
2016年はヘレン・マクロイの当たり年でした。マクロイにしてはサスペンス色の強い作品ですが、中盤以降にぐっと本格の度合いが強くなり、マクロイの技巧が存分に発揮された快作です。訳者あとがきにも『本ミス』のレビューにも記されていましたが、フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットのいずれにも趣向が凝らされている点には舌を巻くしかありません。匠の技にほろ酔い気分でラストのページを繰ると、読者の足元をひっくり返すサプライズが待ち受けていますが、それは読んでのお楽しみということで。
2、カクテルパーティー
ロンドン郊外の田舎が舞台で、かつ関係者全員が顔見知りという、コージーミステリの典型のような舞台設定です。しかし、登場人物がどいつもこいつも曲者のうえ、視点人物がころころ変わって読者を幻惑するため、探偵も犯人も絞り込みにくいなかなかの難物です。一見仲の良さそうな人間関係に仕掛けられた落とし穴が事件解決のカギですが、それはご自分で読んで確認してください。
3、摩天楼のクローズド・サークル
摩天楼のクローズドサークル (エラリー・クイーン外典コレクション)
- 作者: エラリークイーン,Ellery Queen,白須清美
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2015/11/24
- メディア: 単行本
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クイーン外典シリーズ第2弾。代作者がリチャード・デミングのため、本格としてのトリックやロジックの追及は定番の域を出ないものです。しかし、1965年のニューヨーク大停電をモデルにしたアクロバティックなクローズド・サークルの構築と、極限状況における捜査の苦闘ぶりを描いた前半部の描写が気に入ったので、この順位に持ってきました。よくできたTVムービーとして肩の力を適度に抜いて楽しむのがいい作品です。
4、ささやく真実
ヘレン・マクロイの作品は本格でありながら端正とは程遠く、不条理や論理破綻を平然と作中に持ち込み、事件の構図を大きく書き換えるアクロバットも平然と展開します。この作品も本格としての練度は高いですが、被害者のアイデンティティがぶち壊され、それが事件解決のカギになるという壊れっぷりです。変格が好きな方にはおすすめの作品でしょう。
5、九つの解決
昔、抄訳版があったので厳密には新刊ではありませんが、事実上の新刊なのでここに入れました。9種類の事件の謎がひとつひとつ消去される構成ですが、それぞれの謎は本格として見ると定番で凡庸です。しかし、推理の過程を全て読者に開示する徹底したフェアプレーぶりと、 最終的な落としどころが面白かったので、ベスト5に入れました。
【とりあえず2016年総括】
ベスト5がクラシックばかりになってしまいました。まだまだまだまだクラシックの鉱脈は尽きまじ。ここ数年、ずっと同じことを書いている気がしますが、2016年も良質な古典本格が安定して訳された年になりました。未訳リストの中には面白そうな作家・作品がまだまだ埋もれているようですし、古典本格を出版する版元も増えてきたので、2017年も楽しめそうです。
対して、現代のミステリには本格がほとんど、というか全くありませんでした。ルメートル、ディーヴァー、オコンネルなどに本格色の入った作品はありましたが、全てサスペンスでした。
キャラクターやストーリーに重きを置いた作品が多く、本格とみなすには不十分なものばかりで、本格ファンとしては欲求不満のたまった1年になりました。未訳作品の中に本格の面白い作品があるんじゃないかと思うんですが。2017年は現代本格の傑作に出会えることを切に願います。