続きまして、極私的回顧第14弾はアニメになります。商業アニメとアートアニメを一緒にコメントしております。また、いつものお断りですが、amazonなど関連サイトのレビューをテキスト作成の参考にしております。
【マイベスト5】
1、Rhizome
第19回文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門大賞受賞作品です。ドゥルーズ&ガタリが『千のプラトー』で展開したリゾームの概念に正面から挑み、エッシャーやボッシュやブリューゲルの絵画、生物の進化、生態系や複雑系におけるマクロとミクロの対比など、様々な要素を織り交ぜてアニメーション化した、特異な傑作です。実験性が高い作品ですがアートアニメとしての完成度において抜きん出ており、何より思考の強度においてこの作品に勝るアニメがなかったので、1位に持ってくるしかありませんでした。
- 作者: ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ,宇野邦一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/11/05
- メディア: 文庫
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今年のメディア芸術祭は秋の開催になりますが、いろいろと楽しみが多そうですね。
2、聲の形
2016年は『君の名は』をはじめ劇場版アニメの当たり年でしたが、極私的にはその筆頭格がこちらです。当ブログですでにレビュー済みなので、再掲します。
原作自体が2010年代を代表するコミックの一つであり、難聴という障害に正面から向き合って、思春期のみずみずしさ・華やかさ・残酷さ・痛み・不安定さなどといったカタルシスに満ちた要素を描き切った傑作でした。原作の優れた物語と描写を京アニがどう映像化してくれるのか、非常に楽しみにしていましたが、こちらの期待を大きく超えてくれましたね。原作の持ち味を損なうことなく、そこに映像ならではの動的な演出を織り込み、かつ原作の妙味をきっちり残したまま、物語を映画1本の尺に収めてみせました。いや、刈り込まれた分、情動の密度は原作をはるかにしのぐものとなり、カタルシスもいや増しました。京アニならではの美しい風景と繊細な演出が、みずみずしい心情描写の効果をさらに高めています。映画でカットされた場面には、もっと重く残酷なシーン、メッセージ性の強いシーンなどもありますが、尺が限られていることを考えるとやむを得ない判断だったと思いますし、映画の出来を損なう要素ではありません。将也と硝子のコミュニケーションに焦点を当てた構成には、作り手が作品に込めた真摯で豊かで愚直で愛おしい感情が溢れています。改めて京アニの底力を見せつけられたとともに、彼らのラインナップにまた一つオールタイムベスト級の作品が加わりました。
3、この世界の片隅に
全国拡大上映中! 劇場用長編アニメ「この世界の片隅に」公式サイト
SF者としては夢想のあわいをただようはかなさや妖怪の存在に反応すべき。しかし、まずは戦時中の広島・呉の生活を細かに再現した、徹底的なリアリズムに圧倒されました。キャラクターの息遣いが生々しく描かれ、心情表現も極めて秀逸。また、作品のテーマ性も堅牢で、オールタイムベスト級といっていい傑作です。普通の年なら文句なしで1位だと思いますが、2016年はレベルが高すぎました。
響け! ユーフォニアム 3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機 (宝島社文庫)
- 作者: 武田綾乃
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2015/04/04
- メディア: 文庫
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響け!ユーフォニアム2(@anime_eupho)さん | Twitter
ようやくTVアニメがきました。この作品について些末なコメントは不要でしょう。私も高校・大学と音楽経験がありますので、北宇治高校の情熱を自分の学生時代と重ね合わせつつ、作品にのめり込みました。部活の功罪についてはいろいろ意見があると思いますが、中学・高校時代にがむしゃらに部活にのめり込んだ経験は、間違いなく人生の糧になるものだと思います。
5、バーナード嬢曰く
バーナード嬢曰く。 3 (IDコミックス REXコミックス)
- 作者: 施川ユウキ
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2016/10/27
- メディア: コミック
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バーナード嬢曰く1話・2話を観て・・・ - otomeguの定点観測所(再開)
バーナード嬢曰く3巻を読んで・・・ - otomeguの定点観測所(再開)
SF者としてはこの作品に反応せざるをえませんでした。まさかステープルドンやデイヴィッドスンを称揚するアニメが制作される時代が来るとは・・・。できればサンリオSFも取り上げてほしかったですけれど、なかなか難しいか。
- 作者: オラフステープルドン,Olaf Stapledon,浜口稔
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/02
- メディア: 単行本
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【2016年とりあえず総括】
大豊作の年でした。年頭の『Rhizome』の衝撃から始まり、アートアニメは快調。劇場版アニメでオールタイムベスト級の作品が連発され、TVアニメも私好みの作品が色々。チェックすべき作品があまりに多く、横断的な視聴の時間が取れないことを悔やむほどで、近年まれに見る当たり年でした。作り手の情熱と意思が満ちた作品がいくつもあり、透徹したリアリズム、繊細な心情描写、先駆的な作家性、今日的主題の解題、膨大な情報へのコミットなど、日本のアニメーションが培ってきた手法の到達点を体感できた1年でした。相変らず制作現場からは悲鳴に近いニュースが聞こえ、制作延期も連発されていますが、願わくばこの豊穣が2017年も続いてほしいものです。