在来種という概念など犬に食わせろ
過激な表題から入った気がしますが、まあいいでしょう。本来、もっと前にレビューするべきだった本ですが、すっかり遅くなってしまいました。昨年来、旧来の外来種や在来種保護という概念に対して疑問を投げかける科学ノンフィクションがいくつか発売されています。この本もその流れの1つであり、すでにWEB上でもいろいろと話題になっている本です。当ブログでもかなり遅ればせながらレビューしてみたいと思います。
【在来種という概念は恣意的なものである】
外来種のウソ・ホントを科学する:ケン トムソン | 北澤 繁太のレビュー 詳細 | ブクレコ「読んだ!?」でつながるソーシャルブックレビュー
外来種に対する我々の正しい対応とは?「外来種のウソ・ホントを科学する」 著:ケン・トムソン 訳:屋代通子 - 色々する
『外来種のウソ・ホントを科学する』 ケン・トムソン著 評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授) : ライフ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
manager's-blog : 書評 『外来種のウソ・ホントを科学する』
manager's-blog : 書評 『外来種のウソ・ホントを科学する』Ⅱ
まだありますが、とりあえずめぼしいリンクはこれくらいですかね。
一応、当ブログの関連記事も貼っておきます。
外来種の駆除は不可能でありカネと時間の無駄である - otomeguの定点観測所(再開)
そうはいってもやはり外来種は駆除すべきである - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その24 科学ノンフィクション - otomeguの定点観測所(再開)
上の本の奥付けには、著者のケン・トムソンは日本では初訳の著者のように書いてありますが、ガーデニングの本が1冊訳されています。
- 作者: ケントンプソン,赤松由美子,Ken Thompson,上原ゆうこ,小林美穂,篠田知佐子,島田由貴子,田中有智子
- 出版社/メーカー: バベルプレス
- 発売日: 2008/05
- メディア: 単行本
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Thompsonという英語の姓は日本では「トンプソン」という表記が一般的ですが、英語では「トムソン」という発音です。今回の訳では原語の発音を優先したようです。著者の関連リンクはこちら。
Ken Thompson latest - Telegraph
Interview - Ken thompson, plant ecologist, lecturer and author | Horticulture Week
Ken Thompson | The Huffington Post
Alien Species: Not All Bad, and Not Even All Alien | The Huffington Post
'Plants are just itching to grow': Ken Thompson on his approach to gardening | The Telegraph
とりあえずこれくらいで。テキストをいくつか読んだ限りですが、ガーデニングに造詣の深い植物科学の専門家で、イギリスでは結構有名そうな人ですね。外来種については、今回の著作以前にも「外来種は悪ではない」という主張を行ってきたようです。
さて、トムソンの主張なんですが、当ブログにおいてフレッド・ピアスの著作のレビューでまとめたことと大きな差異はないと思います。乱暴ですが要約して箇条書きにしますと、
外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD
- 作者: フレッド・ピアス,藤井留美
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2016/07/14
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
・生物種は絶えず移動して遷移するものであり、ずっとその場所に居続けるような「在来種」など存在しない。
・人間は自然の一部であり、意図しようと意図しまいと他の生物の移動に手を貸してきたし、これからも貸し続ける。
・「在来種」の定義はかなり曖昧なものであり、科学的な正当性は疑わしい。
・「在来種」はしばしば人間の好き嫌いやイメージによって恣意的にカテゴライズされる。
・外来種が生態系を破壊するとか、大きな経済的損失をもたらすとかいう議論には、信用すべき論拠がほとんどない。
・生態系は外から生物が侵入することですぐに壊れるようなデリケートなものではない。外来種も取り込む柔軟性を持っている。
・外来種を含んだ生態系は短期間では混乱に陥っているように見えても、やがて外来種を取り込んで調和する。その過程で在来種が外来種の影響で独自の進化を遂げることもある。
・外来種が在来種を駆逐しているという科学的根拠はない。
・侵入した外来種のほとんどは生き残れず死に絶えていく。
・外来種を駆除することは不可能であり、へたな駆除策はかえってマイナスの結果をもたらす。
・人間は学者も含めて生態系についてほとんど理解していないのだから、理解していないということを前提に議論し、行動するべきである。
・外来種の入った生態系を以前の状態に戻すことは不可能であり、外来種を含んだ生態系をいかに利用するか、いかにつきあうかを現実的に考えるべきである。
と、まあこんなところでしょうか。この種の議論は誤読されやすいので、一部のバスアングラーなどが都合よく解釈しているようです。
フレッド・ピアスの本のレビューの時にも同じことを書きましたが、トムソンは意図的な外来種の導入による攪乱を擁護しているわけではありません。また、外来種の誤った導入で島嶼の生態系が混乱させられてしまう例は、この本でも挙げられています。大切なのは、外来種が存在する現在の状況にいかに現実的に対応するか、という一点です。
【正解は存在しない】
トムソンはこの本で明快な解を唱えているわけではありません。著者が行っているのはあくまで問題提起です。専門家だけでなく市民が広く外来種や生態系の問題について考え、自然認識や科学リテラシーを高めていくことが重要なのでしょう。外来種問題に対する正解など存在しません。何を唱えても何をやっても賛否が交錯する、実に矛盾に満ちた世界です。自分がどの意見に与するべきなのか、読めば読むほど分からなくなっていくというカオティックな世界です。一読者としては、もうしばらく揺れ動いて楽しみたいとも思います。