otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2017SFセミナーレポート② クラークの世紀を語ろう!

 それでは、SFセミナーの企画レポートに参りましょう。まずはアーサー・C・クラークのパネルのレポートからいきます。

 【関連リンク】

Top Page - SF SEMINAR

アーサー・C・クラーク - Wikipedia

牧眞司(shinji maki) (@ShindyMonkey) | Twitter

牧眞司 - シミルボン

牧眞司|WEB本の雑誌

大野万紀 (@makioono) | Twitter

大野万紀 - シミルボン

酒井昭伸 - Wikipedia

中村融 (SF) - Wikipedia

山本弘(@hirorin0015)さん | Twitter

http://hirorin.otaden.jp/

山本弘のSF秘密基地

山本弘(@hirorin015) - カクヨム

 

【では始めます】

 いくらでも貼れますが、きりがないので、この辺で。

 ほんとは1コマ目の宮内悠介さんのインタビューから気合い入れてレポしたかったんですが、前日夜にいきつけのイタリアン酒場でニュージーランドワインを飲みすぎ、二日酔い状態になって遅刻するという失態を犯したため、1コマ目ではきちんと主題を聞き取ることができませんでした。なんともったいない・・・。そのため、2コマ目からいかせていただきます。

 ニュージーランドのワインについては改めてテキスト化する予定なのでしばらく寝かしておくとして、本題に入ります。

【楽天市場】ワイン > ニュージーランド > ニュージーランド注目生産者 > ベビー・ドール:ワインショップ ドラジェ

PourVous通信 : イーランズ・エステート ベビー・ドール ソーヴィニヨン・ブラン 2011 NZ 白

 クラークについてこのブログの読者の方に改めて説明する必要はないでしょう。今年はクラーク生誕100年だから大いに盛り上がろうということで、牧眞司大野万紀山本弘中村融酒井昭伸の各氏がパネラーとなって、クラークについて熱く語ろうというパネルが行われました。当然ながら話が尽きるはずもなく、各氏がいいたいことの恐らく1割もいかないうちに時間が終了してしまったようです。合宿企画では、私が清水建設の方に行ったので、本会のみのレポとなります。論点をかいつまんでまとめてみましょう。

 

【渇きの海】 

  クラークはこの作品をドキュメンタリー形式で書いています。クラークの描くリアルは無味乾燥ではなく、人間味のあるリアリティです。クラークには読者に媚びず、しかし楽しませようという気持ちがあって、非常にバランスがよくまとまっていて、小説の教科書のように上手い作品であるといえます。

 多数の人物が登場してきますが、キャラの過去を数行でさらりと書き分けてリアリティを演出しています。キャラについて延々と設定を書く現在の作家はクラークを見習うべきです。そして、クリフハンガー的なサスペンスを演出しつつも混乱やパニックを描かず、端正な小説として仕上げています。

 

【太陽系最後の日】 

  クラークはウェルズ以来のイギリスSFの伝統とガーンズバック以来(??)のアメリカSFとを融合させた最初の作家といえます。その表現手法において、「太陽系最後の日」にはこの融合、彼のやりたいこと、が凝縮されているといえるでしょう。

 

幼年期の終わり 

幼年期の終り

幼年期の終り

 
幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

 
地球幼年期の終わり (創元推理文庫)

地球幼年期の終わり (創元推理文庫)

 

  この作品には人類進化、ファーストコンタクト、集合精神、超能力など、後のSFのテーマとなる要素がほぼ網羅されていて、かつそれらが壮大なビジョンの中に融合しています。

 クラークには神秘主義的側面があり、ステープルドン以来のイギリスSFの稀有壮大なビジョンを受け継いでいますが、

オラフ・ステープルドン - Wikipedia 

スターメイカー

スターメイカー

 
最後にして最初の人類

最後にして最初の人類

 

 生物が宇宙に進出して神へと霊的な進化を遂げるというのはキリスト教的には危険思想であり、C・S・ルイスと激しい論争になったことがあるそうです。ケンブリッジのパブでトールキンも交えて議論をしたこともあるそうです。その時の録音でも残っていれば非常に面白かったんですがねえ。

 Rowland White on Twitter: "When Arthur C. Clarke & J.R.R. Tolkien went to the pub & got pissed. From Francis Spufford's brilliant Backroom Boys https://t.co/LcR9Ij6Qsf" 

宇宙への序曲〔新訳版〕 - アーサー C クラーク - Google ブックス

C・S・ルイス - Wikipedia

J・R・R・トールキン - Wikipedia

 

【楽園の泉】 

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

 

  クラークにはブラッドベリ的なファンタジー作家的要素、詩情の作家としての要素があって、心情や情景の描写が非常に巧みです。

レイ・ブラッドベリ - Wikipedia

 そして、「SFは絵だねえ」という言葉がありますが、

野田昌宏 - Wikipedia

 絵的に面白い・美しい描写をさらりと行ってしまうところにクラークのすごさがあります。『楽園の泉』の蝶はあまりにも印象的です。

『楽園の泉』解説

 また、ハードSFはクラークが作ったといっても過言ではありませんが、メガストラクチャーやテクノロジーを読者に対して分かりやすく説明する、読みやすいSFがクラークの特徴です。ハードSFの「ハード」的な面で突き抜けた作品はありませんが、とにかく小説としての書き方が上手で、現在読んでも違和感のない作品が多いです。また、交友関係が広く、様々な情報ソースを駆使して科学知識を吸収していたようで、そのパワフルさは小松左京に通じるところがあるでしょう。

Sakyo Komatsu home page

小松左京 - Wikipedia

 また、クラークがさまざまな技術のアイデアを創出し、実現したものも多いですから、クラークは技術の水先案内人であったともいえるでしょう。

SF小説が予言した未来の科学技術が実現したケースを時系列で見ることができるイラスト図 : カラパイア

 

【都市と星】 

都市と星〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ク)

都市と星〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF ク)

 
都市と星 (ハヤカワ文庫 SF 271)

都市と星 (ハヤカワ文庫 SF 271)

 

http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/8114/libro1-1.html

銀河帝国の崩壊: Manuke Station : SF Review

 『都市と星』の新訳はなかなか大変だったそうです。『銀河帝国の崩壊』との接続については、このブログをお読みの方には説明不要でしょう。

銀河帝国の崩壊 (創元SF文庫 (611-1))

銀河帝国の崩壊 (創元SF文庫 (611-1))

 

  両作の接続については原文でもクラークが混乱していて、不整合を処理するのが難しかったそうです。また、クラークにはイギリス伝統(??)のそこはかとないウィットやユーモアがありますが、それを日本語に直すのは至難の業だそうです。クラークの地の英文は分かりにくいものではありませんが、美しい日本語にするのは難しいそうです。

 また、『都市と星』にもクラークの神秘主義的側面が表れていて、アカシックレコード的な設定が登場します。人間の意識は情報またはエネルギーに変換されて宇宙にあまねく偏在できる、というのがクラークのビジョンでしたが、これは後のサイバーパンクの先駆だったともいえるでしょうし、テクノロジー的には実現可能性もありますからね。

アーサー・C・クラーク『都市と星〔新訳版〕』|文学どうでしょう

新訳版『都市と星』(アーサー・C・クラーク)を読んだ: Have a Nice Vision/2nd season

都市と星: Manuke Station : SF Review

DMM.com [STEINS;GATE Nitro The Best! Vol.5 DL版] PCゲーム

DMM.com [STEINS;GATE 0] PCゲーム

 

【クラークの後継の作家】

 21世紀現在、クラークの後継といえる作家はやはりバクスターでしょう。

スティーヴン・バクスター - Wikipedia 

過ぎ去りし日々の光〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

過ぎ去りし日々の光〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

 
過ぎ去りし日々の光〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

過ぎ去りし日々の光〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

 

  

 現在、バクスターアレステア・レナルズによる「メデューサとの出会い」の公式続編が進行中です。「出会い」が『幼年期』のようになる話だそうなので、かなり面白そうです。私はまだ未読ですが、原文で読むべき作品ですね。早川でさっさと訳してくれれば済む話ですが。 

The Medusa Chronicles

The Medusa Chronicles

 

The Medusa Chronicles:スティーヴン・バクスター/アレステア・レナルズ

アレステア・レナルズ - Wikipedia

 また、日本人でクラーク的な作家といえばやはり野尻抱介でしょう。早くハードSFに戻ってきてください。

尻P(野尻抱介) (@nojiri_h) | Twitter

野尻抱介 - Wikipedia 

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)

 
沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)

沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)