『複数性のエコロジー』レビュー??
現代思想系のテキストが続きます。今回は、昨年刊行されたこちらの書籍のレビューに参りましょう。
【関連リンク】
書評・最新書評 : 複数性のエコロジー―人間ならざるものの環境哲学 [著]篠原雅武 - 武田徹(評論家・ジャーナリスト) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
http://www.ibunsha.co.jp/0335.html
http://www.ibunsha.co.jp/0335hyo.2.pdf
http://www.ibunsha.co.jp/0335hyo.4.pdf
まもなく発売:篠原雅武『複数性のエコロジー』、稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』、など : ウラゲツ☆ブログ
新宿本店3階じんぶんや 篠原雅武 選「エコロジカル・シフトの時代へ――ティモシー・モートンとの対話」 | 本の「今」がわかる 紀伊國屋書店
篠原『全-生活論』:全体性が重要といいつつ全体性って何かも言えず、<母性>にすり寄る情けない本。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
他にもいろいろ貼れますが、とりあえずこの辺で。
【篠原ではなくモートン】
上のリンクで山形浩生が篠原雅武をぶったたいています。その欠点がそのまんまこの著作にも当てはまると思います。しょうもない自分語りやらまとまりのなさやら哲学的な冗漫さやら芯のない理想論やら、かつて山形が指摘した欠点は残念ながらこの本でも解消されていません。環境哲学を表題にするなら、ティモシー・モートンの翻訳に徹すればいい仕事になったと思うんですが。哲学・思想書としては、篠原の書いた部分は書評に値する水準にありません。今回は期待していたんだけどなあ。
この本の成果はティモシー・モートンを紹介したことに尽きます。巻末のインタビューが一番レベルが高い内容でした。しかし、インタビューはあくまで断片的であり、そこからくみ取れるモートンのエッセンスも断片的です。そのため、モートンの思想を把握するには材料が少なすぎて、なかなかコメントしづらいです。
とりあえず、要点と思われる箇所は、上の書評のリンクの内容と重なる点もありますが、大きく分けて3つです。
・思弁的実在論を召喚しつつ、社会認識=自然認識に人も、人ではないものも、人でありながら人ではないものも含めていく、新たな認識論的転回。
・無垢な自然が存在するという誤った自然観の破壊。人間が自然の一部であるように、人ではないもの=自然もまた社会や都市の一部であり、互いに作用しあいながら漸進していくという新たな自然観の構築。
・現在の近代の物質文明の崩壊に伴う、新しいエコロジカルな社会の到来。
イノセントに過ぎる箇所が多々ありますが、キーワードをまとめるとこんな感じでしょうか。しかし、繰り返しですが、このインタビューや上記リンクのyou tubeなどだけでは、材料が少なすぎてどうにも判断がつきかねます。モートンの哲学には興味深い要素をいろいろ含まれているだけに、もっと紙幅をとって紹介するべきだったと思います。。
近代の無垢な自然観を打ち壊すという点においては、ジャンルが異なりますが、当ブログでも紹介したこの辺と相通じているという感じもします。
いろいろ揚げ足取りを行いましたが、それでもなお、you tubeを見てモートンの主張に共感できるなら、とりあえず買いでいいと思います。しつこいですが、早くモートンの翻訳作業を進めてください。