otomeguの定点観測所(再開)

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融けゆくGゼロの世界⇒ドイツ

 サミットそしてG20と、トランプ米大統領の国際秩序を無視した振る舞いは非常に気まずいものでした。そして、トランプだけでなくドイツのメルケルも西側の同盟の終焉を告げるような発言や行動を続ける中、アメリカ・ヨーロッパの外交は歴史的な転換点を迎えているという向きもあります。

 

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 このNATOにおける演説をはじめ、国際外交におけるトランプの振舞いはひどいものです。ヨーロッパに何かあってももはやアメリカがヨーロッパを防衛するとは考えるな、という明確なメッセージは、NATOが構築してきた集団的自衛権の枠組みをぶち壊すとともに、ヨーロッパとアメリカの距離を亀裂はおろか永久的な断絶へと向かわせる危険のあるものです。ロシアにヨーロッパを挑発する機会を与えるかのようなアメリカの振舞いは、NATOの防衛体制を根底から覆すことになるかもしれません。メルケルがヨーロッパが自立し、事態をヨーロッパ自身で掌握しようと呼びかけることは、アメリカという軸から離れたヨーロッパ外交の転換点ともいえるものです。

 イギリスのEU離脱、そしてアメリカの責任放棄。自国の都合のみを押し出した主要国の無責任な振る舞いを鑑みると、イギリスとアメリカは当てにできないというごく当たり前のことをメルケルが主張するのも、さもありなんという気がします。

 しかし、トランプは国内の政治的基盤すら固められず、メイも早くもレームダック化の様相を見せています。現在の彼らのエキセントリックな振る舞いが歴史的な例外であり、意外な短命で終わるとすれば、戦後70年以上維持されてきた欧米の同盟関係が修復される可能性もあるでしょう。そこにヨーロッパ自身でくさびを打ち込むことは、ヨーロッパにとって本当に利益をなるのでしょうか。

 それに、日本も他国のことは言えませんが、ドイツをはじめとするヨーロッパがアメリカの軍事力の傘に保護されて経済的な繁栄を謳歌してきたことは歴史的な事実であり、アメリカは金を出しすぎているとトランプが喚くことには正しい側面もあります。ドイツがアメリカの軍事力に頼ってきた戦後史を考えると、メルケルがトランプを一方的に非難するのは少々図々しいということもできるでしょう。

 そして、メルケルとトランプがお互いを非難し合い、西側諸国の同盟に亀裂を入れると、結局はロシアが得をするだけです。プーチンがヨーロッパにゆさぶりをかけ、NATOやEUの分裂を画策してくれば、ただでさえ危うくなっているヨーロッパの安全保障はさらに不安定なものになります。

 戦後、ドイツは過去の歴史から教訓を学び、謙虚な外交・内政の道筋を歩んできたことになっています。しかし、メルケルビヤホールで喚くおばちゃんのごとくアメリカやイギリスとの別離を叫び、さらにロシアまでその列に加えて論じる姿は、過去のドイツの忌まわしい指導者を連想させるようで、何とも嫌な感じがします。それでもなお、民主主義的な価値観を踏みつけにするトランプよりは、価値観の共有を唱えるメルケルの方がはるかにましだといえるでしょう。しかし、残念ながら彼女にはNATOをはじめとする西側の同盟を守ろうとする意識はさらさらないようです。

 このカオスの影響がアジアに飛び火してこないことを切に祈るばかりです。