2017サイエンスアゴラレポ
毎度毎度の遅ればせですが、サイエンスアゴラに行ってきましたので、久しぶりにサイエンス関係のテキストを挙げてみたいと思います。
【会場は良くなった気がします】
昨年までの日本科学未来館から、お台場テレコムセンターに会場を移しての開催となりました。展示が1つの建物にほぼ集約されたうえ、レストランなどの飲食店が同じ建物内にあるので、昨年までと比べてゆったりと楽しめるようになりました。ビールやワインも飲めるようになったし。
各分野の研究所やNPO、学校のクラブ、企業などが多彩なブースを出していたのも例年通り。幅広さとカオスさ、そしてアットホームな雰囲気がサイエンスアゴラの良さですね。そして、研究者の方と話をして研究の様子を聞いたり、気軽に素朴な質問をぶつけられたりする風通しの良さも例年通り。やはり優れた科学コミュニケーションの場ですね。
回った全てのブースについてレポートするのはさすがに無理なので、気になったところをいくつか紹介したいと思います。
まずは、毎年お邪魔しているこちらの展示から。外来種の危険性と生物多様性に関するパネル展示と、サイエンスアゴラの2週間前から捕獲したという動物たちに実際に触れることで、生物多様性保全に関する啓蒙活動が行われていました。
当ブログでは、在来種・外来種という安易な線引きに疑問を呈したり、外来種を取り入れた現実的な自然観念の構成に触れたりして、何回か記事にしてきました。
現場で活動なさっている方には失礼ですが、外来種=悪という固定観念には、やはり違和感を覚えました。解説役の方といくつかやりとりをしましたが、外来種も取り込んだ形で生物多様性を維持できる可能性はないのか、という問題提起にはあまり色よい反応がなく、とにかく外来種の根絶および在来種の保全ありきという頑なな姿勢でした。ヒアリなどの外来種の侵入を極力防除するのは、人間社会に与えるマイナスの影響を鑑みても当然のことです。しかし、アメリカザリガニやブラックバスなど、既に定着した外来種の根本的な駆除は不可能ですから、外来種と在来種との共存を探るのが現実的な方策だと思いますし、外来種が生物多様性を阻害しているという科学的な証明はされていないはずなんですが、どうも頭が固い・・・。
外来生物を日本の自然が駆逐して生物多様性が守られた例として、今回もアカウキクサが取り上げられていました。しかし、これが事実誤認らしいことについては、昨年吹っ飛ばしてしまった前ブログでも言及しています。
2012年、兵庫の一庫ダムでアカウキクサが発生しました。次いで、それを食草とするミズメイガの幼虫も大量発生しました。その結果としてウキクサが食べ尽くされたうえ、ガの幼虫も水に沈んで魚の餌などになっていなくなり、景観がきれいに回復したそうです。自然の力が外来種を駆逐したということで、自然の不思議さを示すニュースとして話題になりました。
大繁殖した外来植物、蛾と魚により駆除される - EUROPA(エウロパ)
朝日新聞デジタル:悩みの浮草、自然が一掃 兵庫のダム、蛾の幼虫がエサに - 環境
ダムで外来植物が異常発生→蛾の幼虫が葉を食べ尽くす→幼虫は魚の餌食に→景観回復 MR
しかし、どうやら事態はそう簡単にはいかなかったようです。一度駆除されたと思われたアカウキクサですが、実はしぶとく生き残っていたようです。2012年以降も一庫ダムに定着して、毎年発生しているようです。
外来種や生物多様性の問題には複雑な側面があって一筋縄ではいかないということを、改めて認識しました。
【生命をささえるタンパク質の「かたち」】
生命をささえるタンパク質の「かたち」 :: プログラム情報 :: 開催プログラム|サイエンスアゴラ scienceAGORA
大阪大学蛋白研、広島市立大、立命館大、関西学院大の研究チームがタンパク質の分子に関する展示をしていました。パネル展示だけでなく、ペーパークラフトでタンパク質分子を作ったり、3Dメガネでタンパク質分子を立体視したりといろいろ楽しい試みをやっていて、たくさんの子どもさんが楽しんでいました。
今回一番驚いたのは、タンパク質分子のデータベースが存在し、アクセスフリーで誰でも見ることができるということでした。リンクはこちらです。
さっそくアクセスしてみましたが、さるがに素人だと分からないところだらけでした。この仕事をしていても、さすがにタンパク質分子までは扱いませんので。サンプルとして見せる分には面白いかもしれませんが。
現在、生命科学のデータベースの統合も進んでいるようです。これがさらなるイノベーションにつながっていくといいですね。
【君はサルの壁を超えたか!? 骨をみて、サルとの違いを考えよう!】
君はサルの壁を超えたか!?骨をみて、サルとの違いを考えよう! :: プログラム情報 :: 開催プログラム|サイエンスアゴラ scienceAGORA
2年ぶりに日本人類学会が展示を出していました。今回は複数の解説シートがあって、私の関心領域に重なるところも多々ありました。
手・足の違いというと、人間が二足歩行するようになって他の類人猿と最も際立った違いが出たところですね。チンパンジーもゴリラも二足歩行ではなくナックルウォークで、両手に前肢としての機能を残しています。人間と類人猿の手・前肢および足・後肢の最大の違いは、親指の働きと筋肉のつき方だそうです。ただし、人間の足の裏にも筋肉は残っているので、練習次第で足の裏でものをつかめるようにもなるそうです。結局、人間もやはり類人猿の一種だということですね。
極私的に一番面白かったのはこのシートです。最近は分子生物学的な系統樹ももちろんありますが、人類学的にはオーソドックスに頭骨の構造をもとにするのが最も間違いないのだそうです。我々ホモ・サピエンスは新人、ネアンデルタール人は旧人とされ、原人とされる他のホモ属からはやや離れた存在です。ゼロ年代に話題になったホモ・フローレシエンシスや、かつてはホモ・サピエンスとの混血説もあったホモ・エレクトスは原人に含まれるそうで、ホモ・サピエンスとはだいぶ昔に枝分かれしたグループなのだそうです。恥ずかしながら、私の中の情報がゼロ年代のままで、ホモ・フローレシエンシスが原人だという認識がなかったうえ、ホモ・サピエンスとホモ・エレクトスとの混血説が否定されていたことを知らなかったので、大変勉強になりました。