2017年極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ)
それでは、文庫に続いて単行本・ノベルズの部門に参ります。昨年から『このラノ』で部門が分割されたのに伴い、当ブログも分割しました。以前は別枠で扱っていたノベライズの一群もここに含めております。なお、いつもの通り、テキスト作成に『このラノ』およびamazonほか各種レビューを参照しています。
【マイベスト5】
まずはマイベスト5からいきましょう。
1、異世界薬局
昨年の回顧でも触れた作品ですが、今年は1位に推します。作者が実際の薬学研究者ということで、ファンタジーでありながら地に足のついた科学描写があり、科学が異世界の難病を救いながら世界を急速に改変していく物語は爽快感に溢れています。また、世界の理不尽や不条理などに誠実に向き合う主人公の姿はすがすがしく、勤め人の読者の琴線に触れる部分が多々あります。こういう世の中に役立つ仕事ができればいいんですが、現実にはなかなかうまくいきませんからねえ。
2、横浜駅SF
SFからの避難民その1。永遠に続く工事のために無限増殖した横浜駅が日本列島を覆うという奇想が光ります。Suikaやエキナカなどセンス良く改変された鉄道用語や設定がちりばめられ、適度なカタルシスを含んだディストピア世界がユーモアたっぷりに描写されています。実際、横浜駅の工事は永遠に続きそうですしねえ・・・。
永遠に未完?「横浜駅」工事はいつ終わるのか | 駅・再開発 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
3、ビアンカ・オーバーステップ
ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)
- 作者: 筒城灯士郎,いとうのいぢ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/03/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)
- 作者: 筒城灯士郎,いとうのいぢ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/03/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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SFからの避難民その2。筒井康隆が続編を希望したら、本当に続編が新人賞に応募されてきて、しかもそれが出版されたという経緯がそもそも筒井チック。作品の内容も、エロ、おちょくり、パロディ、メタフィクション、換喩、哲学的含意など、筒井康隆の世界を模したペダンティックな構造になっています。ライトノベルにおける文学的冒険の極北にして極上のパスティーシュだといえるでしょう。
4、ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム
SFからの避難民その3。ゲーマー歴が長いと愛すべきクソゲーが1つや2つはあるものですが、ここまで愛が深いと一種の狂気ですね。いつの時代になってもゲーマーの性は変わらないということです。現代の科学技術を適用したゲームの成り立ちとクソゲーになった所以の描写がいちいち的確で、読みながら何度もほくそ笑んでしまいました。
5、リトルアーモリー だから、少女は撃鉄を起こす
リトルアーモリー だから、少女は撃鉄を起こす (Jノベルライト)
- 作者: おかざき登,ふゆの春秋,トミーテック
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2016/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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リトルアーモリーとは (リトルアーモリーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
トミーテックから発売されている「制服少女×銃器」をテーマにした銃火器プラモデルの表紙の世界を展開したノベライズです。私はプラモについてはほとんど知識がなく、「リトルアーモリー」のプラモも1つも持っていないので、小説のみの評価になります。女子高生の戦争と青春を扱ったジェットコースターノベルとして、水準の高いライトノベルになっています。プラモを知らなくても十分に楽しめる作品です。
【とりあえず2017年総括】
ベスト5がSFからの避難所みたいになってしまいました。いろいろ迷っているうちにこうなってしまいました。何卒、ご容赦ください。
文庫の総括にも書きましたが、概況としてはここ数年同じ状態が続いています。WEB発の小説の一群は2017年も順調に推移しました。一定の淘汰を経た作品が書籍になるので、粗製乱造にはならずクオリティは担保されています。また、電子書籍を活用することでコミカライズも容易であるため、メディアミックスも堅調でよりどりみどり。読んでも読んでもきりがないという、読者として嬉しい悲鳴の上がる状況は今年も変わりませんでした。
読者層について、これまでは文庫が10代・20代の若い読者で、単行本が社会人の読者、ライト文芸は文藝寄りの読者など、一定の棲み分けがなされてきました。しかし、文芸ジャンルとしては自然なあり方ですが、ジャンルの展開と拡散が進んだことで、読者層の境界が自然と融解してきたようです。この流れを受けて、従来の文庫レーベルからもライト文芸的な作品の出版が相次ぎました。この状況は2018年も続くような気がします。 版型やレーベルで読者層を絞るのではなく、各作品が戦略的に攻める読者層を絞る時代に入ったのでしょう。
この作品には今年もお世話になりました。呑兵衛が酒を飲みながら酒と同じ気分で愉しむことのできる貴重な小説です。