2017年極私的回顧その4 本格ミステリ(国内)
年末に入って多忙になり、また更新が滞っております。なんとかペースを上げなきゃいかんのですが。極私的回顧第4弾は国内の本格ミステリに参ります。いつものお断りですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
【マイベスト5】
では、いつもの通りマイベスト5から。
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1、鮎川哲也探偵小説選
鮎川哲也の復刊というだけで価値の高い書籍ですが、しかもあの『白の恐怖』と『白樺荘事件』が収録されたとなれば、刊行されたこと自体が事件であり、文句なしの1位です。不足しているピースもありますが『白の恐怖』の未完成部分が埋まっており、鮎川の思惟に寄り添いながら読書の愉楽を味わうことができます。
2、屍人荘の殺人
ミステリの新人賞で受賞作なしが相次ぎ、新人賞不作の年という嘆きが聞こえる中、読者としてもフラストレーションがたまっていたのですが、それらの焦燥を一気にかき消す快作が10月に刊行されました。すでに各種ランキングで絶賛されている作品なので今さらな感がありますが、フェアプレーな本格としての完成度が極めて高く、トリックもロジックも新人離れしたハイレベルなものです。また、定石の使い方も崩し方も鮮やかで、極私的には今年刊行の国内ミステリの中でベストワンだと思います。怪奇・幻想の徒としてはゾンビものの味わいについても触れておきたいところですが、重大なネタばらしになってしまうのでやめておきましょう。
3、ミステリークロック
〈防犯探偵・榎本〉シリーズ最新作。今回もハイレベルな密室の謎が揃い、作者の冴えを見せつけられます。特に、表題作「ミステリークロック」の時間の厳密性の間隙を突いたトリックと、登場人物の性格の機微を事件解決に落とし込む「鏡の国の殺人」の鮮やかさな手際は秀逸です。密室の可能性はまだまだ尽きまじ。
4、禁じられたジュリエット
古野まほろ作品は推理の要素を盛りすぎて過剰や重複に陥り、本格として欠陥があるものが多いのですが、今回の結末はごくシンプルです。ロジックの冴えをしっかり味わうことができる秀作です。また、本格ミステリが弾圧される世界の描写は作者の本格愛の裏返しです。現在のところ、この作品が古野まほろの代表作でしょう。
5、乱歩&正史
評論枠からはこの2冊。戦前から戦後にかけての推理小説の通史であるとともに、戦中の二人の創作姿勢、作品世界の位置づけの違いなど、興味深い論点がいくつも抽出できます。ここに松本清張を絡めれば、本格と社会派が結節して戦後の推理小説史の大枠を描くことができます。今年は評論も秀作の多い年でした。
【とりあえず2017年総括】
新本格30周年。本来なら当ブログでも記事を挙げなければいけないトピックなんですが、だらだら先送りしている間に年末になってしまいました。島田荘司に本格の美しさを教えられ、有栖川・法月・綾辻らをほぼリアルタイムで摂取してきた人間にとっては、あっという間の30年だったような気もします。今や新本格は1つのジャンルとして確立し、欧米にはない日本独自のミステリの圏域を作り上げてきました。新本格は黄金期の探偵小説の様式を逆照射し、欧米では今や喪失された古き良きミステリのコードを守り、かつ現代的に洗練させ続けてきました。このムーブメントは日本のミステリの中核であるとともに、世界に誇るべき財産です。様々な記念行事や出版などを味わうことができ、2017年は本格の読者として満たされた1年でした。
しかし、島田荘司の新作はなかったし、新人賞の受賞作なしが相次いだことに象徴されるように新しい書き手の動きはいまいちだったし、ストーリー重視の作風が多いのはつまり本格の軸が弱い作品が多いということでもあるし・・・。心配な点を挙げたらきりがありませんが、現在の本格を巡る状況は間違いなく良いものです。2018年もいい作品に数多く出会えることを祈ります。