2017年極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内)
書けるうちにできるだけ書いておきましょう。次はミステリ系エンタテイメント(国内)です。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
【マイベスト5】
1、機龍警察 狼眼殺手
〈龍騎兵〉シリーズ第6作。巻を重ねるごとにエンタテイメントとして骨太になっています。今回は警察小説・スパイ小説およびSFとして重厚な出来であるとともに、過去の作品で張られていた伏線を巧みに回収する作りになっていて、極めてリーダビリティの高い小説になっています。アニメ『Noir』に対するセルフパロディも面白い点ですが、年季の入ったアニメファンでないと分かりにくいかもしれません。
【三部作全て載せときましょう】
言わずと知れた黒死舘であり、ミステリファンなら大枚をはたいても買うべき本です。ペダンティックな注釈がとにかく素晴らしく、これ1冊で黒死館だけでなく小栗虫太郎通になった気分で法水麟太郎の砂上の楼閣をあざ笑うことができます。著者の異常なまでの執念に感服する本でもあります。
3、希望が死んだ夜に
少女のねじ曲がった身体が生々しい表紙が、作品の内容を的確に表しています。現代の貧困問題に踏み込み、10代の子供たちが襲われそうな悲劇を強いリアリティで表現した、青春小説にして警察小説です。少年少女の青臭さ・切なさと大人の汚さ・社会システムの慈悲のなさが巧妙に同居していて、読みながらどんどん嫌な気分になっていきます(誉め言葉です)。結末も救いがなく、読後感の悪さでは2017年に読んだ本の中で一番の作品でした(繰り返しですが誉め言葉です)。
4、うさぎ強盗には死んでもらう
ライトノベルからの殴り込みです。最初はライトノベル枠に入れるつもりでしたが、『このミス』で京大推理小説研が1位に持ってきていたので、ミステリ枠に放り込みました。意図的に混乱が引き起こされた群像劇であり、いかれた登場人物たちが次々と使い捨てにされるジェットコースターノベルです。西尾維新だのバッカーノだの複数の作品の影が背景にちらつきますが、オリジナリティもしっかりしており、もっと評価されていい作品だと思います。
5、マツリカ・マトリョシカ
〈マツリカ〉シリーズ第3弾にして初の長編です。作者得意の青春ミステリと日常の謎に骨太な密室が組み合わされ、多重解決の趣向を凝らすことで、ミステリとしての完成度が高まりました。また、ワトスン役・柴山の人間的成長や、探偵・マツリカの更なる洗練もしっかり描かれており、作者の成長を感じることができる作品です。
【2017年とりあえず総括】
新本格30周年、SRの会の機関誌60周年、ワセミス60周年などミステリ界におけるメルクマールが多かった一方で、新人賞の受賞作なしが相次ぎ、新人の不作が嘆かれた年でもありました。でも、ライトノベルも含めればミステリ系の新人はわんさか出てきていますし、『屍人荘』もあったわけですし、 一部の文学賞の結果からジャンル全体の判断を行うのはいかがなものかと思います。
あくまでミステリはエンタテイメント小説であり、下手な問題意識を持ちこむよりも、娯楽に徹した作品が最も強いものです。新鋭だろうがベテランだろうが面白いものは面白く、つまらないものはつまらない。ミステリ系エンタテイメント小説を読みながら、そんな当たり前のことを実感した1年でした。ベスト5も『希望が死んだ夜に』を除いて娯楽作が並ぶ結果になりました。
2016年に比べて選ぶ基準がだいぶ変わりましたが、2017年は仕事上のストレスが少なかったので、そのことがもろに反映されている気がします。小説を読む際に仕事のことは極力持ち込みたくないんですが、国産ミステリや時代小説に限ってはなぜか仕事とリンクした読書になってしまいます。これも勤め人の性というやつでしょうか。2018年も娯楽作が楽しめる年であるといいんですが、仕事次第ですね。