otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

(龍⇒亀⇒)鯨骨生物群集

 サイエンス単体のテキストはえらく久しぶりのような気がします。情報収集を怠っているわけではないのですが。今回は化学合成生態系に関する話題とリンクをまとめてみました。

【熱水生態系】

  地球上には、太陽のエネルギーに(直接には)依存せずにエネルギー生産を行っている化学合成生態系がいくつか存在します。地中深くに存在するアーキアなどの微生物はとりあえず置いておきますが。最も有名なのは熱水噴出孔のチムニー周辺に存在する生態系ですね。

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http://www.oceandictionary.jp/scapes1/scape_by_randam/randam10/select1025.html

【閲覧注意】深海の熱水に生きる不思議な生物 - NAVER まとめ

深海熱水噴出孔の世界 生命はどのようにして誕生したのか?|ガリレオX|ワック

http://www.godac.jamstec.go.jp/catalog/data/doc_catalog/media/shinkai19_15.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/118/6/118_6_1083/_pdf

海底熱水噴出孔の生態系:研究者発の海の話│東京大学 海洋アライアンス

熱水噴出孔 - Wikipedia

 この生態系の基となっているのは熱水に含まれる各種の化学物質であり、有機物合成を行う細菌やアーキアが生産者として生態系を支えています。そして、他の海域では見られない特異な生命が繁殖しており、有名なところでは、

 チューブワームとか、

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チューブワーム - Wikipedia

 スケーリーフットとか、

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ウロコフネタマガイ - Wikipedia

 ユニークな生物がいろいろ見られます。

 熱水噴出孔については生命の誕生にかかわったという説も根強くあり、太古の火星やエンケラドスなどに類似の環境が存在し、地球外生命が存在するのではないかという仮説の根拠にもなっています。しかし、極私的には、生命は深海の環境ではなく地上の淡水環境で誕生したと思っております。このあたりはまだまだ論争が続くんでしょうけど。

第4回 地上に生まれた最初の生命 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 

 まだ本題に入っていない・・・。こういった熱水噴出孔のような、太陽エネルギーに依存しない化学合成生態系は他にも海底にいくつか存在します。

 

【冷湧水生態系】

 熱水に比べると迫力に欠けますが、実は環境としてはより安定しているのが冷水湧出帯だそうです。細菌やアーキアの化学合成が生産力の基盤にあり、チューブワームがわさわさいるという点では熱水生態系と同じです。しかし、熱水と異なり、湧水及び化学物質がゆっくりですが長期間にわたって供給されるので、冷水湧出帯の環境は熱水のそれに比べて安定しており、長持ちするのだそうです。

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海底温泉で暮らす生物:詳細

冷水湧出帯 - Wikipedia

 

【ようやく本題の鯨骨生物群集】

 やっと本題にきました。上記のような化学合成生態系の中で、クジラの死骸の周りに形成されるのが鯨骨生物群集です。

 エネルギー源となるのはクジラの死骸に付着した大量の脂肪組織です。肉や脂肪が食べ尽くされて骨だけになっても、クジラの骨には大量の脂分が含まれているので、それをエネルギー源にして生物群集が維持されます。この閉鎖生態系が深海に点在・隔離分布しているのだそうです。

 生態系の基盤をなす生産者はもちろん化学合成を行う細菌やアーキアです。熱水噴出孔や冷水湧出帯と共通の生物も多いそうですが、鯨骨生物群集独特の生物たちも多数存在しています。

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多様な海洋生物を育むクジラの死骸 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/45/6/45_6_439/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshpreview/20/4/20_4_315/_pdf

プレスリリース<海洋研究開発機構

クジラの死骸が生み出す鯨骨生物群集の可能性 - ログミー

鯨骨生物群集 - Wikipedia

 有名どころではまず、別名・ゾンビワームといわれるホネクイハナムシ。メスが鯨の死骸の中にすっぽり埋まって、共生している細菌に脂質を分解させることで栄養を得ています。また、メスに比べてオスが非常に小さい矮雄で、オスはメスの体内やメスの分泌する粘液の中などで生活しているそうです。みじめや・・・。

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今週の一枚<海洋研究開発機構

ホネクイハナムシの仲間 | 深海いきもの図鑑

ゾンビワーム 深海生物紹介 – 深海屋ブログ

貴重な深海生物「ホネクイハナムシ」の累代繁殖個体を公開 | 新江ノ島水族館

ホネクイハナムシ - Wikipedia

 あとはゲイコツナメクジウオですね。普通、ナメクジウオの仲間は水のきれいな浅い海に住んでいるのですが、こいつだけが酸素が乏しく硫黄の濃度の高い深海に生息しています。ナメクジウオの仲間でも最も初期の段階で分岐した種だそうなので、人間を含む我々脊索動物の御先祖の特徴を色濃く残す、人間の大先輩ということになります。

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ゲイコツナメクジウオ 深海は古代種の玉手箱やでぇ – 深海屋ブログ(画像元)

ゲイコツナメクジウオの謎 - 図鑑.net モバイルブログ

ゲイコツナメクジウオ - Wikipedia

 ゲイコツナメクジウオは脊索動物の初期のころに分化したのではないかと書きました。ホネクイハナムシなどを含む鯨骨生物群集のDNAを分析すると、彼らが出現したのはクジラが登場するよりはるか以前の恐竜時代になるのだそうです。現在、彼らは鯨骨に群がっていますが、かつては魚竜や首長竜などの「竜骨」に群集を形成していたのではないかと推測できます。

ロバート・ジェンキンズの研究 竜骨群集

http://www.paleo-fossil.com/blog/?p=121

日本地球惑星科学連合2014年大会/首長竜類遺骸に成立する化学合成生態系 ―共産化石,生物浸食の分布に着目して―

Tatsuo Oji on Twitter: "@RobertGJenkins 竜骨群集で不思議に思うことは、死体に群れて集まってきた動物群がそこでくたばって化石になっているということだ。餌が無くなったら他に移ることはあまりないのだろうか? それともこのような群集はOpportunisticにわっと増え、生存期間が短いのか?"

ジェンキンズ ロバート - 金沢大学研究者情報

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ロバート・ジェンキンズの研究 大テーマ1 化学合成生態系の進化(画像元)

 しかし、ここで問題が一つあります。皆さんご存知の通り、首長竜や魚竜などの海生爬虫類は約6500万年前に多くの恐竜や哺乳類などと一緒に絶滅しました。そして、新生代にクジラが、海洋に汎世界的に分布したクジラ類であるプロトケトゥス類が出現したのは、早くとも約4800万年前であるとされています。ここに約1700万年間の空白が発生します。この間もホネクイハナムシやゲイコツナメクジウオなどの鯨骨群集を成す生物たちは生き続けていたわけですから、何か別の生物の死骸に群集を形成していたはずです。

クジラの進化とテチス海|川崎悟司 オフィシャルブログ 古世界の住人 Powered by Ameba

幻影随想: クジラの進化系統図に新たな一枚が追加された

最古のクジラを発見、想定外の進化速度 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

http://www.catv296.ne.jp/~whale/rekisi.html

クジラ類の進化史 - Wikipedia

Protocetidae - Wikipedia

 そこで、上記にリンクを貼った金沢大学のジェンキンズ研究室(ロバ研)が注目したのが、ウミガメでした。ウミガメの仲間は白亜紀末の大量絶滅を生き延びて今日まで続いてきた系統です。もちろん、彼らは新生代の最初期である始新世の海の中を泳ぎ回っていました。そのため、ウミガメの死骸に群集を形成することで、現在の鯨骨群集を成す生物たちの祖先は永らえてきたのではないかというわけです。亀骨群集ということですね。

 以前、サイエンスゼロでも放送されていましたが、ロバ研では、実際にウミガメの死骸を沈めて、生物群集が形成されるかどうか実験しているそうです。

日本地球惑星科学連合2014年大会/白亜紀のウミガメ化石から発見した化学合成群集:竜骨群集と鯨骨群集をつなぐもの

  そして昨年、白亜紀の亀骨群集の化石が発見されたという論文の発表があったそうです。ロバ研の推測は正しかったようですね。もしかしたら、現在の海底でもどこかで亀骨群集が形成されているかもしれません。

http://www.geobiology.jp/diary/2017/10/post-5.html

https://www.app.pan.pl/archive/published/app62/app004052017.pdf

http://www.geobiology.jp/publications/2017/discovery-of-chemosynthesis-based-association-on-the-cretaceous-basal-leatherback-sea-turtle-from-ja.html

 このトピックには非常に興味がありますので、今後も情報を追っていきたいと思って おります。