論創ミステリ300点・極私的回顧
いつものごとくすごーく遅ればせですが、昨年、論創社のミステリ関連書籍が300点を突破しました。それに敬意を払いつつ、同社のミステリについて極私的回顧の番外編という形式でまとめてみたいと思います。
【マイベスト5】
論創海外ミステリ・論創ミステリ叢書通算300巻突破記念フェア - 書泉/神保町・秋葉原
論創社 | 社会科学・人文書、思想・哲学、歴史、文学、ミステリ・推理小説、芸術、演劇・戯曲・台本の新刊書籍・本の案内・販売の論創社
1、巡礼者パズル
クエンティンの〈パズル〉シリーズは東京創元社や扶桑社からも出ていますが、極私的には『巡礼者』がベストです。2013年度の本格ミステリランキングで1位になりました。少ない登場人物ながら人間関係を複雑に絡ませることでフーダニットとしての妙味を出しつつ、読者を巧みに幻惑する構成と展開も素晴らしいです。とあるカップルの関係に亀裂が入ることが物語の核心に絡みますが、それは〈パズル〉シリーズを実際に読んで確かめてください。
- 作者: パトリッククェンティン,Patrick Quentin,森泉玲子
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
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- 作者: パトリッククエンティン,Patrick Quentin,水野恵
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: 単行本
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2、灰色の女
- 作者: A.M.ウィリアムスン,A.M. Williamson,中島賢二
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2008/02/01
- メディア: 単行本
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江戸川乱歩と黒岩涙香の『幽霊塔』の基となった作品として有名ですね。乱歩と涙香を読んだ後に原典に触れたので、ミステリとしての仕掛けには既視感がありました。しかし、ゴシック・ロマンスとしての幻想的な雰囲気、古典的なサスペンスとしての高い完成度など、味わいのある傑作でした。乱歩と涙香が刺激を受けたのも納得できる重厚なクラシックだといえるでしょう。
明治探偵冒険小説集 (1) 黒岩涙香集 ちくま文庫―明治探偵冒険小説集
- 作者: 黒岩涙香
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/04
- メディア: 文庫
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3、鮎川哲也探偵小説選
2017年度の極私的回顧でレビュー済みの作品なので、再掲します。
鮎川哲也の復刊というだけで価値の高い書籍ですが、しかもあの『白の恐怖』と『白樺荘事件』が収録されたとなれば、刊行されたこと自体が事件であり、文句なしの1位です。不足しているピースもありますが『白の恐怖』の未完成部分が埋まっており、鮎川の思惟に寄り添いながら読書の愉楽を味わうことができます。
2017年極私的回顧その4 本格ミステリ(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
4、西尾正探偵小説選
西尾正はミステリというよりは怪奇幻想の作家であり、戦前の怪奇短編の作家としては屈指の存在でしょう。ラヴクラフトはじめアメリカのパルプ・フィクションを下敷きにしつつ、20世紀初頭の日本の風俗などを絡ませた短編が収められています。こういう作家を掘り起こしてくれるから、論創社の仕事は価値が高いのです。
5、列車に御用心
徹底的に古典的なロジックに徹した推理短編が収められた短編集です。余計な虚飾を排しているため本格としての軸がクリアーですし、キャラクターや物語をうまく配してあるのでバラエティに富んだ短編の構成です。フェアプレーかつ直球で、読み応えのあるクラシックだといえるでしょう。amazonのレビューにもある通り、現代本格との感覚のずれは各所にありますし、高踏的な古臭さもありますし、「今更初訳される話が面白いワケないだろ」にも激しく同調します。しかし、それらをすべて呑み込んだうえで、なおクラシックを探索するのが愉しいのです。
【とりあえず総括】
21世紀のジャンル・ミステリにおいて、クラシックの復権というムーブメントを作ったのは、論創社の功績です。海外ミステリの創刊当初は翻訳のひどさに頭にくることもありましたが、そのうちに編集・翻訳のクオリティが安定し、ほぼ安心して読めるようになりました。とはいえ作品のクオリティは玉石混交で、なんでこれを訳したのか理解できないような駄作も毎年刊行されています。まあ、ジャンク品が大量に流通しているのは全てのジャンル小説に共通の事象ですし、ジャンクを摂取することもまたジャンル小説を読む楽しみの一環と思えばいいのでしょう。
スタージョンの法則とは (スタージョンノホウソクとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
本格ミステリファンとして、クラシックを摂取することは必要不可欠です。今後とも傑作・駄作含めてバラエティに富んだクラシックを提供してくださるよう、よろしくお願い申し上げます。