2018SFセミナーレポートその2 山野浩一追悼座談会
多忙が続き、なかなか更新が思うにまかせません。早くGWを終わらせないといけませんね。さぼりまくっているブログですが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。SFセミナーレポート第2弾は、山野浩一追悼座談会に参ります。
山野浩一(Koichi Yamano)公式ウェブサイト(新)
Dana Lewis (@KunoichiZ) | Twitter
大和田始(@fifi_ma_fifi)さん | Twitter
Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト
岡和田晃_5/19伏見健二RPGオンリーコンGM (@orionaveugle) | Twitter
SFセミナー2018まとめ (3ページ目) - Togetter
かなり貼る量が多くなりましたが、こんなところで。
司会は岡和田晃、パネルはデーナ・ルイス、大和田始、高橋良平の各氏ということで、NW-SF社に集っていた方々。企画紹介では山野浩一の思い出を語るということになっていましたが、案の定、膨大な資料を用意していた岡和田の独壇場になりました。まあ、会場の聴衆はこの展開を予測していたでしょうから、特に問題はありませんでしたが。
そして、さすが岡和田晃。膨大な資料を開示しながら山野浩一の履歴を辿っていくことで、濃い世界に会場を引きずり込んでいきました。この調査力と細かなこだわりもまた彼の魅力なんですよねえ。本来なら合宿で出た資料なども含めてテキスト化するべきですが、私が合宿の山野企画に出ていないため、本会のさわりの部分を触れるだけになってしまいます。何卒、ご容赦ください。
では、トークの内容をまとめていきましょう。関西学院大学時代、映画青年だった山野は「デルタ」という自主製作映画を作り、これが評価されたことで寺山修司などとの人脈ができたとのこと。某所で「デルタ」の映像を見せてもらう機会がありましたが、後の山野浩一につながる感覚や前衛や批評性などが端々に感じられる作品でした。また、遺品から出てきたノートには膨大な映画鑑賞のデータや批評が残っていたそうで、自主的に様々な映画のランキングも作っていたとのこと。この要素が後に日本の競馬のデータに基づいた血統主義につながっていったようです。
第1世代の多くのSF作家同様、山野もアニメや人形劇などのテレビの脚本にかかわりました。山野自身の原作による『戦え! オスパー』では、半分以上を自分で脚本を書き、アニメの主題歌は寺山修司が作詞したとのこと。残念ながら『オスパー』の映像は残っていないそうです。合宿では原作漫画が掲載された雑誌が回されていました。
パネラーの皆さんが山野浩一と出会ったきっかけもなかなか面白かったです。
デーナ・ルイスは卒論として日本のSF短編をいくつか英訳したそうですが、その中に『X電車』が入っていたとのこと。翻訳したものを山野に送ったら、お返しに《NW-SF》誌がドカンと段ボール箱に入って届き、それから交流が始まったそうです。
大和田始は大学の同人でバラードを訳したので、それを山野に送ったら、返信のはがきが来て、そこから交流が始まったとのこと。《NW-SF》誌に評論が載ってデビューした後、山野を介して《SFマガジン》にコネができ、シルヴァーバーグの訳をすることになったそうです。以来、《NW-SF》の仕事をするようになったとのこと。
高橋良平はSF同人のファンジンを作っていて、山野に原稿依頼をしたところから交流が始まったとのこと。それ以来、《日本版スターログ》などから原稿依頼が来るようになり、SFの仕事に入っていったそうです。また、トーハンや日販に《NW-SF》誌を車で搬入する仕事もしていたとのことです。
《NW-SF》の編集部ではワークショップもしていたそうで、10~20人くらいで議論をする場だったそうです。創作・評論・思想などと扱った題材は幅広く、ロラン・バルト『神話作用』や、
オルテガ、マックス・ピカート、ベルジャーエフあたりが山野が好きな思想・批評の題材だったそうです。
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アメリカSFにはスペキュレイションがないとする山野は、「何でこれ書いたんだ?」「最初のこれって何?」といった本質的な質問を放ち、常に厳しい評価を行っていたそうです。また、当時の貧乏な若者たちにとってワークショップは食料供給の場でもあったそうで、山野自身が料理を振る舞っていたとのこと。酒ビンを持って襲撃すれば歓迎されたんでしょうね。
第38回日本SF大賞・受賞作決定! - SFWJ:日本SF大賞
当然、もっと再評価されて然るべき作家であり評論家です。山野浩一を日本のSF史・文学史・文化史においていかに位置付けていくのか。ニューウェーブとシンクロしながら日本SFに政治的・芸術的な前衛の要素を持ち込んだのが山野浩一であり、SF評論家として思弁小説の基盤を築いたのが山野浩一であり、筒井康隆のようにSFに対してジャンルの外部から哲学・文学的アプローチを行ったのが山野浩一であり、1960・70年代の文化的アイコンの1つであったのが山野浩一であり、SFでありながらSFでないものの総体が山野浩一です。
本会企画の時間だけではとても足りず、合宿でさらに資料がいろいろ開示されていたようです。しかし、私は合宿の裏企画で草野原々と戯れていたので、より突っ込んだ話は聞けず仕舞いでした。