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『本所おけら長屋(十一) 』短評

 時代小説ファンにとってはおなじみ、今月発売された安心枠のシリーズです。〈本所おけら長屋〉の11巻目も期待に違わぬ面白さでした。

  

本所おけら長屋(十一) (PHP文芸文庫)

本所おけら長屋(十一) (PHP文芸文庫)

 

本所おけら長屋 公式応援団【最新巻発売!】 (@okeranagaya) | Twitter

 私の中では、時代小説の文庫は肩の力を抜きたいときに読む清涼剤のようなものですが、このシリーズは落語のような質の高い定型の笑いが安定して楽しめるので、ストレス解消にもなります。今回もテンポよく読み進め、電車の中であっさり読了しました。適度なボリューム感もいいと思います。

 十巻はどちらかといえばアップテンポなドタバタという印象が強かったですが、今回は人情噺の色が前面に出ています。いつも通りの万松コンビと八五郎中心の5本の短編で構成されています。万松の機転とキップの良さは相変わらずでしたが、今回は八五郎が読者を引き込む人情噺の中心で、万松よりも強い存在感を見せていました。八五郎の思いやりと心意気についてもぐっときた場面がいくつもあり、読後感は非常に清々しいものでした。。

 ただ、前巻あたりから万松が人間的に落ち着いてきたのは、嬉しいやら残念やらというところですね。時を経ることでキャラクターが成長する姿というのは嬉しいものですが、この2人にはできればずっとばかをやり続けてほしい気もします。今回は弥太郎が愛すべきばかの役回りをしてくれましたが、次巻ではどうなりますやら。