otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2018極私的回顧その3 本格ミステリ(海外)

 年末年始も仕事が入っているため、今年も冬コミは行けず仕舞いでした。多忙のためなかなか更新がままなりませんが、飽かずお付き合いいただければ幸いです。極私的回顧第3弾は本格ミステリ(海外)です。ここからはしばらくミステリのテキストが続く予定です。

 いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。

 

otomegu06.hateblo.jp

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【マイベスト5】

このミステリーがすごい! 2019年版

このミステリーがすごい! 2019年版

 

 

2019本格ミステリ・ベスト10

2019本格ミステリ・ベスト10

 

  

ミステリマガジン 2019年 01 月号 [雑誌]
 

 

 では、マイベスト5から参ります。

 

1、牧神の影

牧神の影 (ちくま文庫)

牧神の影 (ちくま文庫)

 

  傑作だという評伝のみ伝わってきたクラシックミステリはいくつかありますが、この作品も長年伝説だったものでした。翻訳紹介に74年を要しましたが、2018年に訳されたこと自体が事件なので、1位に挙げざるを得ません。サスペンスの要素もありますが、軸は読者に知的格闘を強いる本格としての謎解きです。マクロイの丁寧な解説と、読者にたいしてフェアに配置されたヒントが絶妙で、世界屈指の暗号小説といわれてきた評伝に恥じないだけの完成度を持った作品です。

 

2、ムッシュウ・ジョンケルの事件簿 

ムッシュウ・ジョンケルの事件簿 (論創海外ミステリ209)

ムッシュウ・ジョンケルの事件簿 (論創海外ミステリ209)

 

  〈アンクル・アブナ―〉シリーズで知られるポーストの、フランス人の警視総監を主人公にした連作短編集です。幻想怪奇風味の事件群が論理の鉈で断ち切られる様はなかなかに心地よいです。サプライズやアクロバットなど読者へのサービスにも富んでいて、ポーストがやはり当時としては高い力量を有していた作家であることが分かります。短編を1本あげるとすれば、やはり名作と名高い「大暗号」でしょう。

 

3、元年春之祭

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

 

  ポケミスに中国人作家が名を連ねることになるとは。私は中国ミステリについては詳しくありませんが、日本の新本格に影響を受け、日本のアニメ的なキャラ造型に触発された作品が逆輸入されたのは、喜ばしいことなのでしょう。オビで前代未聞と称された異様な動機がこの作品の肝ですが、フーダニットとしても読むことができ、最後にきっちりどんでん返しも用意されている、完成度の高い本格です。

 

4、探偵小説の黄金時代 

探偵小説の黄金時代

探偵小説の黄金時代

 

  かのディテクション・クラブの大戦間の動向について、バークリー、クリスティ、セイヤーズの動向を中心にまとめた資料本です。イギリスの探偵小説黄金期の作家が総ざらいされていて、有名どころから初めて見る作家まで、経歴や作品評、写真資料などがぎっしり詰め込まれています。ミステリファンなら間違いなく楽しめる本でしょう。

 

5、世界推理短編傑作集【新版】 

 これを新作のミステリと並べて論じるのは反則なので、本来はリスト外の本です。しかし、文庫でこれが刊行されたという感激に逆らえず、ランクインさせました。本当は1位ですが、さすがにそれは憚られたのでこの位置で。収録作は全て傑作で、ミステリー黎明期からの短編が並ぶ素晴らしいアンソロジーです。

 

【とりあえず2018年総括】

 各ランキングの1位を総なめにした『カササギ殺人事件』ですが、本格としてはアンフェアな箇所があるのでミステリ系エンタテイメントに回しました。私の読んだ限りですが、この欠点を指摘しているのが三津田信三だけというのは、どうも納得がいきません。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

 
カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

 

  マイベスト5hクラシックばかりになりましたが、2018年は現代本格も元気でした。2017年に引き続き、現代本格の多くがクラシックへのパスティーシュやオマージュであり、底流としてのクラシック志向は健在でした。クラシックと一線を画した現代本格といえるのはクリーヴスくらいだったと思います。

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

あやかしの裏通り (名探偵オーウェン・バーンズ)

 

 

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

数字を一つ思い浮かべろ (文春文庫)

 

  

空の幻像 (創元推理文庫)

空の幻像 (創元推理文庫)

 

 論創社を軸にクラシックの翻訳も引き続き堅調です。これまた2017年と同じことを書きますが、クラシックの面白い作品は訳され続けており、かつ翻訳状況の水準は担保されています。未訳作品はまだまだあるようなので、来年もクラシックを巡る楽しみが続けられますね。 

アリントン邸の怪事件 (論創海外ミステリ)

アリントン邸の怪事件 (論創海外ミステリ)

 

 

月光殺人事件 (論創海外ミステリ)

月光殺人事件 (論創海外ミステリ)

 

 

アリバイ (論創海外ミステリ)

アリバイ (論創海外ミステリ)

 

  2018年は海外本格に華文ミステリが本格参入した1年でもありました。まだまだ傑作が埋もれていそうなので、これからはアジアにも目を配らなければいけないですね。私は中国語が読めないので、翻訳されたものを読むしかないんですが。

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