2018極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外)
極私的回顧第5弾は海外のエンタテイメント小説をまとめております。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
では、マイベスト5にいきます。
1、カササギ殺人事件
当ブログではアンフェアな部分があると判断して、敢えて本格ミステリからは外しましたが、フーダニットとして精緻に構成されており、本来的にはミステリとして極めて骨太な作品です。また、クリスティをはじめとするクラシックへの薫り高いパスティーシュであり、作中作が展開されるメタフィクションであり、出版を題材にした業界小説であり、多彩な襞が読者を引き込んでいきます。各ランキングで1位を総なめにした2018年の大本命ですが、それも納得の出来栄え。2018年のミステリの中でも小説として飛び抜けた完成度を有する、オールタイムベスト級の傑作です。
2、通過者
『クリムゾン・リバー』のグランジェ久々の邦訳作品です。主人公の二転三転する運命が濃密なエピソードとともに綴られており、プロットの構成は複雑極まります。しかし、2段組700ページ超の大部ながらも冗長な箇所がほとんどなく、一気に読み進めることのできるリーダビリティがあります。惜しむらくは、訳文にすると原文のテンポの良さがやや失われてしまうところ。フランス語が得意な方なら原文にあたることをお勧めしますが、長大な仏文との格闘になるので、ご注意ください。
3、乗客ナンバー23の消失
フィツェックの作品にはどんでん返しに失敗した凡作もありますが、この作品は当たりでしょう。豪華客船というクローズド・サークルにアイデアやガジェットをどかどか詰め込んでボリューム感を出しており、事件が解決したと読者が安心した矢先、フィツェックのいつもの強烈なちゃぶ台返しが待っています。常にこのレベルの作品を生産できれば、フィツェックの評価ももう少し上がると思うんですが。
4、兄弟の血 熊と踊れⅡ
2017年の話題作の続編ですが、実際の事件に範をとってアクションで読者を惹きつけた前作とは異なり、血の因襲や暴力の連鎖などの人間の暗部を描くことがこの作品のメインテーマです。サイコサスペンスのようなダークな雰囲気を受け入れられるかどうかで、この作品の評価は分かれると思います。
5、インターンズ・ハンドブック
2018年のB級作品群から1つあげるなら、これでしょう。一応ヒットマン育成の話ですが、表題のようなハンドブック的要素はほとんどなく、ひたすら軽めのアクションが続きます。猥雑なユーモアに満ちた、リアリティをすっとばした娯楽作として楽しめばいいでしょう。
【2018年とりあえず総括】
全体には豊作といっていい1年でした。 英米のミステリは『カササギ』を筆頭に粒がそろっていたと思いますし、2017年からの波である華文ミステリ、今やおなじみの北欧ミステリも安定供給されていました。そして、昨年の回顧では不満を述べたフレンチミステリについても、グランジェ、ポール・アルテなどが供給されて、潤沢な状況でした。1年を通じて様々な国のミステリを愉しむ状況が調っていたと思います。
最後に、素晴らしい小説に出会えたことに感謝しつつ、改めて哀悼の意を捧げます。
【この方は敢えて海外ミステリの項目で・・・】