otomeguの定点観測所(再開)

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2018極私的回顧その7 歴史・時代(文庫)

 続いては極私的回顧第7弾、歴史・時代小説の文庫です。毎度のお断りですが、テキスト作成のため各種ランキングおよびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。

 

otomegu06.hateblo.jp

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【マイベスト5】

 

1、藤沢周平のこころ 

藤沢周平のこころ (文春文庫)

藤沢周平のこころ (文春文庫)

 

 もちろん新刊ではありません。しかし、藤沢周平の一読者として、いかに自分が藤沢周平好きかを自慢しあう集いが大いに楽しめたので、ここに持ってきました。入門書ではないため、せめて代表作くらいを読んでおかないと内容についていけないのが難点でしょうか。 

藤沢周平のこころ (文春MOOK)

藤沢周平のこころ (文春MOOK)

 

 

2、秀吉の能楽師 

秀吉の能楽師 (中公文庫)

秀吉の能楽師 (中公文庫)

 

  豊臣秀吉お抱えの能楽師・暮松新九郎の物語です。能舞台の周囲で繰り広げられる家康や利家の権謀術数に主人公が否応なしに巻き込まれていく様が、組織の論理に組み込まれていく勤め人の姿に重なって、妙に感情移入してしまいました。いつの時代も組織のトップの近くで仕事をするのは大変なんですねえ。

 

3、流れ舟は帰らず 

  笹沢左保の時代小説はミステリ仕立てのものが多いんですが、木枯し紋次郎の傑作選であるこの本も本格仕立ての短編が揃っていて、社会派ミステリの書き手でもあった笹沢の一面をうかがうことができます。人情の機微や抒情がしっかりと描かれていて、時代小説としてももちろん上質です。 

招かれざる客 (角川文庫 緑 306-3)

招かれざる客 (角川文庫 緑 306-3)

 

 

暗い傾斜 (1982年) (角川文庫)

暗い傾斜 (1982年) (角川文庫)

 

  というのは、時代小説の読み手としてのコメントですね。現代本格ミステリの読み手としての視点で見ると、やはり古びていると感じてしまうし、仕掛けの甘い作品が並んでいる気がします。いや、読み手としての私がひねくれているだけか。

 

4、野分の朝:江戸職人綴 

野分の朝: 江戸職人綴 (徳間時代小説文庫)

野分の朝: 江戸職人綴 (徳間時代小説文庫)

 

 江戸の職人たちの姿を描いた、9本の短編集です。職人の仕事の様子や江戸の市井の描写はしっかりしています。何より、仕事も人生もうまくいかないけれど懸命に生きている職人たちの姿に、勤め人として強く感情移入してしまいました。いつの時代も自分の腕一本で生きていくのは大変なんですねえ。

 

5、若鷹武芸帖

姫の一分: 若鷹武芸帖 (光文社時代小説文庫)

姫の一分: 若鷹武芸帖 (光文社時代小説文庫)

 
鎖鎌秘話: 若鷹武芸帖 (光文社時代小説文庫)

鎖鎌秘話: 若鷹武芸帖 (光文社時代小説文庫)

 

  仕事の愚痴みたいなことばかり書いていても仕方がないので、娯楽作で締めます。若い殿様にすれっからしのお供がついて、クセのある面々で展開される武芸帳です。岡本さとるの他のシリーズに比べると軽量級の作品ですが、肩の力を抜いた娯楽作と考えればいけると思います。というか、これくらいご都合主義的にスカッと展開してくれた方が、息抜きとして読むにはいいでしょう。手裏剣、鎖鎌、薙刀ときましたが、次の武器は何でしょうか。

 

【2018年とりあえず回顧】

 毎年同じようなことを書いている気がしますが、時代小説を読んでいると自分の仕事をしている姿が登場人物に照射されてしまいます。その結果、2018年は/も、いつの時代も仕事って大変だなあと思いながら読んだ作品ばかりになってしまいました。ベスト5からは極私的な仕事の色を極力排したかったのですが、それでもこんな感じになってしまいました。

 働き方改革という戯けたことが叫ばれていますが、時代小説を読んでいると、日本人の労働の本質は江戸の昔から変わっていないような気がします。さあ、今日も仕事だ・・・。