2018極私的回顧その21 ファンタジー(国内)
極私的回顧第21弾は国内のファンタジーについてのまとめです。アダルト・ファンタジーおよび児童文学のファンタジーについてまとめており、ライトノベル・ファンタジーはライトノベルの項に入れています。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
【マイベスト5】
1、〈紐結びの魔道師 〉
毎年同じことを書いていますが、文章そのものに幻想をまとわせて読者と神秘を架橋できるファンタジー作家は、現役の作家では彼女だけです。昨年も1位にした〈オーリエラント〉に登場する紐結び(テイクオク)の魔道師・リクエンシルを主人公にした三部作です。年明けの第3巻でめでたくハッピーエンドとなりました。その身に闇を背負う〈オーリエラント〉の魔道において、リクエンシルをはじめとする明るく軽妙なキャラクターたちは貴重な存在です。まだまだ〈オーリエラント〉の世界は拡がっていきそうなので、今後も楽しみですね。
2、ヤイレスーホ
2016年の回顧で取り上げた『チポロ』の続編です。前作にも登場したヤイレスーホを主人公にしたダーク・ファンタジーで、人生に悩み苦しむことや生きにくさが物語の主題になっています。神と人間の狭間で、思うようにならない状況下で自分の人生にいかに折り合いをつけていくのか。読んでいて勤め人としての自分の身につまされるところが多々ありました。
3、白の王
2017年刊行の『青の王』の続編です。前作より100年ほど時代を下った物語ですが、物語の重厚さ、文体の密度、描写の美しさなど、廣嶋世界の美しさは健在で、良質なハイ・ファンタジーとなっています。児童文学出身の作家であるためか、人物造型がやや記号的に過ぎるきらいがありますが、物語の妙味を損なってはいませんから、このバランスでいいと思います。
ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~ (1) (角川コミックス・エース)
- 作者: 瀬野反人
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/12/04
- メディア: コミック
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現実世界では同じ人間なのに、異民族・異原語・異文化であるとなかなか分かり合えません。まして、ファンタジー世界では異種族なんだから、もっと分かり合えるはずがありません。という発想に基づいた、異種族・異原語探索というテーマの物語です。種族間の高い壁をきちんと明示し、種族間のコミュニケーションに重きを置いた作品です。これぞファンタジー人類学であり比較文化論といえるでしょう。
5、〈アルスラーン戦記〉完結
2017年末刊行ですが、読んだのが2018年だったので。国内ファンタジーにおいて〈アルスラーン〉完結は大きなニュースでした。この結末については非難する人の方が多いと思いますが、とりあえず長年付き合ってきた大河シリーズの完結に敬意を表して、ここに入れました。
【2018年とりあえず総括】
本来であれば、〈アルスラーン〉完結が2018年度の国内ファンタジーを華やかに盛り上げなければいけないはずでした。しかし、予想していたとはいえ、これだけ待たせておいて雑な結末を突きつけられると徒労感が拭えないというか、何というか。やはり30年は長すぎました。登場人物皆殺しというのは田中芳樹の持ち芸ですが、あまりにひどい。まあ、〈タイタニア〉よりはましだったと思っておきましょう。私の中の〈アルスラーン〉は7巻で完結しています。
昨年の回顧で良質なエブリデイマジックを読みたいと記しましたが、2018年も全体にはハイ・ファンタジーが主流だったという印象でした。エンタテイメントとして強度の高い作品も少なく、ここ数年の和製ファンタジーの停滞が続いてしまった感じです。作家の層が薄いので、供給される作品の質量や傾向が急に変わることはないんですよね。新しい才能の登場を切に祈りたいですが、創元ファンタジイ新人賞は今年限りで休止ですし、盛り上がりそうな要素がなかなか見当たりません。
締めは昨年と同じ祈りを掲げて終わります。祈・マイナー文学からの脱却。祈・SFやミステリのサブジャンル扱いからの脱却。祈・児童文学の独りよがりの視点の脱却。