2019SFセミナーレポートその1 竹書房の挑戦
それでは、毎度毎度の遅ればせですが、本年のSFセミナーのレポートをぼちぼちあげていきます。第1弾は、本会企画のその1「竹書房の挑戦」から参ります。
NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 死者の章 (竹書房文庫)
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- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2017/11/24
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NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 生者の章 (竹書房文庫)
- 作者: ジョージ・A・ロメロ,他
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2017/11/24
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Shiro Mizunoue (@chikushobo02) | Twitter
竹書房からSF?? というクエスチョンマークがついたのも今は昔。ここ数年は、早川や創元が出せないニッチな(??)SFを出す版元としてSFファンの間でも認知されつつあり、『SFが読みたい』でも紹介欄が付与されるなど、竹書房は確実にSF界における地歩を固めつつあります(??)。というわけで、竹書房の編集者と関連の翻訳者を読んで話を聞こうじゃねえか、という企画でした。
竹書房の編集者である水上志郎の話がなかなか面白かったです。ソ連やアメリカのボストンなど幼いころから海外に在住しつつ、かつて早稲田にあったシュタイナーシューレに通ってもいたそうで、なかなかユニークな来歴をお持ちの方のようです。
シュタイナー学園初等部・中等部・高等部 - Wikipedia
水上志郎の読書遍歴ですが、海外在住の時はとにかく日本語に飢えていて、日本語の本を片っ端から読んでいたとのことです。海外SFはあまり読んでおらず、日本のSFを星新一、筒井康隆、小松左京と摂取していたそうなので、これだけ聞くとオーソドックスなSF遍歴に思えます。日本に帰ってきてからは図書館の本をア行から順に片っ端から読み始めるという荒行(??)を行い、ア行に並んでいた有栖川有栖と綾辻行人に出会ったことで新本格に傾いた時期があったそうです。その他、伝奇で半村良、あるいは江戸川乱歩も読んでいたとのことです。SF・ミステリファンとしてはよくありそうなパターンの遍歴ですね。海外SFで読んだものとしてはヴォネガットやT・J・バスの名前も挙がっていましたが、さすがにT・J・バスについては微妙な反応でした。
大学入学後は、大学に行かず神保町で古書をあさっていたということで、これまたどこかで聞いたような話がですね。大学卒業後、さすがに就職せにゃならんということで、バイトの応募で竹書房に入ったとのことです。ところが、海外の小説をやるという触れ込みだったはずが、レプリカントの編集に回されたそうです。極私的にはそれでもいいような気がしますが。
その後、官能小説や海外のロマンス小説を担当しながらも、SFは読み続けていて、サイン会などにも行っていて、SF・ファンタジーとのコンタクトは保っていたそうです。そして、2013年に中村融と会う機会があり、エフィンジャーの話で延々と盛り上がったそうで、その際に竹書房でSF企画をやろうという話になったとのことです。
- 作者: ジョージ・アレック・エフィンジャー,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
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とはいえ、竹書房はもちろんSFを出すような文藝主体の出版社ではないので、まずは複数の企画を出して営業会議を通さなければならなかったとのことです。その中で、過去に竹書房で出版したことのあったオールディスをまずやるということになったそうです。中村融が立てた企画では、オールディスはおまけで入れたものだそうだったのですが。
そして、まず最初に出すことになったのが『寄港地の船』です。
https://twilog.org/homkithi/2(画像元)
紹介画像にある通りですが、これでぽしゃったら次が出せないという背水の陣で臨んだ本だったそうで(今でも背水の陣という状況はあまり変わっていないそうですが)、貴志祐介のオビ、坂野公一のカバーデザインという工夫を行って、かなり気合を入れて臨んだとのことです。幸い部数が出て、SFの出版を続けることができたそうです。『寄港地』は『SFが読みたい』で7位にランクインしました。しかし、当時の竹書房はSF界においてまだゲリラ的存在だったので、竹書房に早川からの連絡はなく、竹書房の営業さんが書店での盗み聞きをして発覚したとのことです。このあたりは新興勢力の辛いところでしょうかね。
オールディスの次に出版されたのが猫SFです。
SFファンだけでなく猫好きの視点も取り入れたということで、「かわいく・たのしく」・・・なかなかそれらしい表紙になっています。アンソロジーとしては中村融おまかせのセレクトだそうですが、意図的に初訳を入れるなどの工夫もしているそうです。
その次がゼラズニイですね。
https://twilog.org/homkithi/2(画像元)
こちらも画像にある通りですが、訳者の森瀬繚からツイッターでメッセージが来て持ち込まれた企画だそうです。FGO的世界の先駆けというふれこみですが、極私的にはFGOとはかなり違うような気もします。広江礼威にカバーを描いてもらったことで、小説の雰囲気がよく出た表紙になったそうです。
森瀬 繚@『這い寄る混沌』発売中 (@Molice) | Twitter
http://www.din.or.jp/~redbear/
そして、私も極私的回顧で触れた『グリオール』。
2018極私的回顧その20 ファンタジー(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
https://twilog.org/homkithi/2(画像元)
企画としては2番目に通っていたものだそうですが、シェパードが亡くなり、版権がしばらく宙に浮いていたそうです。
2017年に版権のオファーが通り、再び企画が動き出したとのことです。当初は3篇の収録予定だったのですが、SF読者・水上志郎の内的対話によると「3篇だけなら〈SFマガジン〉を3冊買えばいい」程度の評価になってしまい、企画として物足りなさが残ったとのことです。そのため、強化の意図を込めて未訳短編を加えて、4篇の収録になりました。また、カバーイラストの構図も企画当初からのこだわりがあり、タイトルの文字を小さくして竜を目立たせるなど、いろいろ工夫を凝らしたそうです。結果としては、それらすべてが綜合されて傑作の誕生につながりました。
さて、竹書房SFの今後の企画についてはこんな感じになっているそうです。
https://twilog.org/homkithi/2(画像元)
ジャスパー・フォード、チャールズ・ハーネスともに現在の早川や創元ではちょっと出せないようなニッチなところなので、非常に楽しみですね。
Early Riser: The new standalone novel from the Number One bestselling author
- 作者: Jasper Fforde
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これからの竹書房SFの目指すところとしては、エンヤ婆の弓矢の様な意図を描いているそうで、海外SFを読まない層を海外SFに呼び込むような企画を打っていきたいとのことです。
水之上さん「早川や創元に比べると竹書房はゲリラ。宇宙艦隊が打ち合ってる中で中村さんや内田さんからロケットランチャーを借りてぶっ放しては巣穴へ逃げ帰る感じ」
— 青の零号 (@BitingAngle) May 4, 2019
内田さん「竹書房にそんな凄い編集者がいるはずはない、中村さんの妄想だと思ってた。シェパードが通ったという連絡が来たがその時点で実在は確認できず、ヴァンス・トレジャリーの時に名刺をもらって初めて水之上さんが実在するとわかった。」
— 青の零号 (@BitingAngle) May 4, 2019
合宿企画の方には顔を出せなかったのですが、岡和田晃さんによると、早川や創元・竹書房に加えてアトリエサードも含めてのやりとりになっていたようです。極私的に翻訳が出てほしいものはいろいろあるのですが、早川や創元の場合、文庫は部数のロットが決まっていて、特に最近の早川は既定路線で固まっているので、ニッチなSFをなかなか拾えなくなっている状況のようです。そのような状況下で、竹書房がゲリラとして登場してきたことの意味は大きいもののような気がします。
ちなみに、合宿企画では業を煮やした某翻訳者が「それなら自分で訳して出版してみろ!」と叫んでいたそうで・・・。近年のSFでは翻訳者の人数も出版社の数もパイが限られているので、新しい企画はなかなか難しいということでしょうか。まあ、原書で読んでしまえばすむ話なんですけどね。