また間が空いてしまいましたが、SFセミナーのレポートを続けます。今回は、合宿企画で行われた第18回Sense of Gender賞の候補作1次選考会のテキストです。もう1次選考会後の絞り込みが行われているはずなので、遅きに失しておりますが・・・。最近は顔を出すと書記をやる流れになっているなあ。
【関連リンク】
2017SFセミナーレポート⑤ センス・オブ・ジェンダー賞2016第1次選考会 - otomeguの定点観測所(再開)
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Takayuki TATSUMI (@t2tatsumi) | Twitter
【候補作】
SFセミナー合宿企画では、「竹書房の挑戦・ふたたび」、そして「ジェンダーSF研究会の部屋」に参加。写真は後者で名前が出た作品。 pic.twitter.com/UNlVuipNj1
— 岡和田晃_『骨踊り 向井豊昭小説選』 (@orionaveugle) May 5, 2019
先日も貼った岡和田晃さんのツイッターのリンクですが、画像がホワイトボードに書かれた候補作一覧です。字の下手なのはご勘弁ください。毎年のジェンダーSF研メンバーに加え、今年は岡和田さんから出るわ出るわ。ホワイトボードに書き切れなくなり、非常に乱雑な板書になってしまいました。多分、書き切れなかった作品もあったはずです。どうもすみません。小谷真理さんがメモを取っていたので、正式にはそちらをもとに絞り込みがなされているはずです。
画像のホワイトボードで赤く囲んである作品が、SFセミナーでの議論の中では有力視されていた(??)作品です。とりあえず、作品リンクを貼り、軽くレビューしておきます。
極私的にはこれが最有力かと思います。性転換が容易になったため、若い男性を一定期間義務として妊娠させて人口を維持する政策が実施されたという、ディストピアSFです。女性が大きく人口を減らしかつ生殖能力を失っているためセックス/ジェンダーが社会全体として大きく転倒していることと、男性が女性になるというトランス経験が個人や社会に与える影響を描いた、骨太な佳作です。作者の女性視点から見た皮肉な結末も非常に痛快かつ鋭利です。
短編「ガール・ミーツ・シブサワ」を所収。霊となったゴスロリ少女が澁澤龍彦の生涯を追うというあらすじの短編ですが、つまりは高原英理の私的澁澤論です。偶像ではない人間・澁澤を赤裸々に描写しつつ、朔太郎とか足穂とかおなじみの名前が出てきて当時の雰囲気を浮かび上がらせています。メタ評論としては面白い短編ですが、ジェンダー的に鋭利とは思えません。
短編「団地妻B」を所収。一見ポルノみたいですが、樺山三英の純文学(??)短編です。岡和田さんが強く推していました。美しきマダムBと転がる死体、団地という集合住宅独特の環境とその盛衰、SFファンには親しみのある樺山ワールドの薫り。文学的な仕掛けを解きほぐしてマダムBへと至る知的快楽はなかなかのものですし、ジェンダー的にも十分深みを備えています。芥川賞レースでは冷遇された模様で(??)、SFのジャンル外ではなかなか理解されづらい作家が樺山三英かもしれません。せっかくなので、景気づけにここで一つ授賞させるのも手かもしれません。あとはジェンダーSF研のおねーさま方次第ですな。
第159回芥川賞⑥ 候補作予想「あなたの声わたしの声」小山内恵美子、「団地妻B」樺山三英(『すばる』4月号) - 象の鼻-麒麟の首筋.com
http://www.sakkatsu.com/author/detail/12953/
高原英理がもう一つ。今回の議論に出るまで去年読んだのをすっかり忘れていました m(__)m。本の山から探し出して改めて読んでみましたが、極私的には・・・うーん・・・。一応、伝記小説としての形を成してはいます。1980年代の文化の薫りを嗅ぎたければ読んでみてもいいかもしれません。でも、ジェンダー的要素が弱すぎます。
既に絞り込みが行われたはずで、最終選考を経て、受賞作は夏のSF大会で発表になるはずです。楽しみにしておきましょう。