2019極私的回顧その7 ライトノベル(文庫)
相変わらず遅れ気味の更新ですが、年末年始も仕事で立て込んでいるので、何卒、ご容赦いただければ幸いです。では、久しぶりの文化・文芸系のテキストですね。本来はこっちが当ブログのメインであるはずなんですが。極私的回顧第7弾はライトノベル、まずは文庫からいきます。3年前に『このラノ』が文庫と単行本・ノベルズの2つに分かれましたので、ライトノベルの回顧も文庫と単行本部門に分けました。2019年もその区分けを踏襲します。なお、いつもの通り、テキスト作成に際して『このラノ』およびamazonはじめ各種レビューを参照しております。
【マイベスト5】
2018極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その1 ライトノベル(文庫) - otomeguの定点観測所(再開)
1、プロペラオペラ
2018年の1位が『ヴィヴィ・レイン』でしたので、すっかり犬村小六びいきになってしまっていますが、面白いので仕方ないですね。かの『飛空士』を彷彿とさせる「恋と空戦」に犬村小六が還ってきました。今回、飛ぶのは軍艦です。空の陸地・浮遊石が漂う、両舷に砲塔を配置するしかない世界で、いかに知恵と戦術を駆使して戦うか。独特な設定ゆえの社会や技術のありようを描く犬村ワールドは今回も健在。架空世界の戦記物にして、ヒリヒリするようなボーイ・ミーツ・ガールです。『飛空士』『ヴィヴィ・レイン』につづく傑作になるであろうシリーズの開幕を祝して、2019年はこれを1位に持ってきました。
2、彼女は死んでも治らない
友達の沙紀ちゃんは異常者に殺されるという体質を持ち、何度も殺されては生き返るループを繰り返しているという、読者を小ばかにしたような設定の作品です。コミカルな語りのコージーの果て、演出音とともに沙紀ちゃんが生き返る様はまさにおちょくり。探偵役の二人がメタでメタメタながら読者にさりげなく配慮する余裕をかますあざとさも素敵。でも、ミステリとしての仕掛けは安定なのでご安心。各所にばらまかれたギミックがうまく駆動している、良いバランスの作品です。
3、夏へのトンネル、さよならの出口
古式ゆかしい薫り漂う「ライトノベル」ではなく「ジュヴナイル」。『イリヤの空』の系譜に連なる青春小説であり、清涼な読後感が印象的です。タイムトンネルを用いたYA系のSFと見ることもできますが、主人公たちが巻き込まれる怪異は理論や科学の枠の外に置かれ、最後までその正体は明らかにならないので、極私的には児童文学のファンタジーの文法を適用したいです。
4、ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?
ポストアポカリプスの世界における特殊料理と百合。この発想だけで半分勝ったようなものでしょう。スライムやドラゴンから戦車まで何でも食べてしまう貪欲さが素敵。まさか蜘蛛と戦車がおいしそうに思える日が来るとは思いませんでした・・・。調理に至るまでの素材集めの冒険にも獲物の生態やら捕獲方法やら多数のアイデアがばらまかれており、コミカルな語り口ながら密度の濃い作品です。
5、 賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 ~愛弟子サヨナのわくわく冒険ランド~
2019年度の変態枠。ネタとエロとおちょくりとギャグと下ネタとメタとスラップスティックをこれでもかとぶちこんだ怪作にして混沌です。無用なレビューは不要、変態ならば括目して読め。この種のお遊びを若手にやらせ、しかも成功させてしまうところが電撃というレーベルの襞の深さを表しています。読後に「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」を連想した私は年季の入った変態です。続刊が営為制作中だそうなので、作者及び編集部のご多幸およびご不幸を心から祈念しております。
【とりあえず2019年総括】
まるで手抜きのようですが、毎年書いていることを繰り返します。WEB小説は引き続き活況で、新レーベルも複数登場し、コミカライズやアニメ化のメディアミックスも引き続き活発で、WEBを中心に裾野が引き続き緩やかに拡大していて、ライト文芸はじめジャンルの融解は進んでおり、読者の年齢層も幅広さを増していて、ジャンル内ジャンルでは新しい領域が生み出され、横断的なジャンル把握はもはや不可能であり、旧来のレーベルからも新人賞や新人作品が活発に送り込まれ、膨大な刊行点数をさばき切るのは不可能であり、読者が各自で必死にアンテナを張っている状況が続いていて、ライトノベルというジャンル運動体の熱量は引き続き熱く、アカデミックな批評の動きも続いています。・・・去年のテキストのコピペですね。
さらに、2018年からの繰り返しです。クリエイターのプロ/アマの境が曖昧になり、さらに膨大なキャラクターコンテンツが生産され、ファンとキャラクターのインタラクティブな通行が当たり前となり、質量を増したコンテンツの本流の中でせめぎ合いながらライトノベルは堅調な存在感を見せています。・・・これも去年のテキストのコピペですね。まあ、引き続き豊饒で飽和な状況が続いているという、読者としては相変わらず嬉しい悲鳴を上げたくなるような状況であるということで。Vtuberの皆さんにはいつもお世話になっております。
本山らの📖ラノベ好きVtuber (@Motoyama_Rano) | Twitter
軽野鈴(かるの べる)🔔 (@karuno_vel) | Twitter
ふじゅ📖VR好きラノベ読み (@fuju9981) | Twitter
2019年、『夏へのトンネル、さよならの出口』や『賢勇者シコルスキ・ジーライフ』を読み、かつての作品群を思い起こしながら考えました。『ロードス島』以降、30年以上ライトノベルを読んできましたが、このジャンルの核は変わっていません。ライトノベルはインターフェイスすなわち界面です。キャラクター小説という文法をベースに、SF・ファンタジー・ミステリ・戦記・歴史時代・ホラー・青春小説・スポーツなど多様なジャンルとダイナミックに接続し横断し、ギャグまでも含めた多彩な手法を取り込みながら有機的に拡大する表現領域であり運動体、それがライトノベルです。そこに一定の普遍性があるから、ライトノベルはジャンルとしてここまで発展してきました。
最後まで手抜きで恐縮ですが、昨年の繰り返しで締めます。ライトノベルはキャラクターコンテンツの一つではありますが、あくまでその本質は小説であり文芸です。小説として魅力的で物語る力の強い作品、小説としての本道を踏まえた力ある作品が支持され、淘汰の中で生き残っていくでしょう。