2019極私的回顧その8 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど)
極私的回顧第8弾は、文庫に続いて単行本・ノベルズなどなどです。3年前から『このラノ』で部門が分割されたのに伴い、当ブログもその分け方に倣いました。ノベライズやリプレイの一群もここに含めております。そのため、例年通り版型がカオスになっておりますが、ツッコミはなしでお願いします。なお、いつものお断りですが、テキスト作成に『このラノ』およびamazonほか各種レビューを参照しています。
【マイベスト5】
2018極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ・ノベライズ・リプレイなど) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その2 ライトノベル(単行本・ノベルズ) - otomeguの定点観測所(再開)
1、やがて君になる 佐伯沙弥香について
尊い・・・
いや、この一言で終わりでいいんですが。非常に美しいアニメ・コミックの非常に美しいノベライズにして副読本。作中のキーキャラクターである佐伯沙弥香の百合への目覚めから葛藤、達観、そして七海燈子に向けた熱情と劣情が瑞々しく描かれています。入間人間の感性とテキストがはまりまくっており、百合好きの方にはマストアイテムでしょう。原作未読でも読める構成ではありますが、まずは原作から没入することを強くお勧めします。
2、エンタングル:ガール
守凪了子とは (カミナギリョーコとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
『ゼーガペイン』の世界を守凪了子の視点で変奏したノベライズ。SFのランキングからは漏れてしまうのでライトノベルの枠で評価しました。一応、原作の筋には沿っているものの、了子の視点から見た舞浜の日常と戦いに伴う世界の変化や綻びがゆるやかに綴られています。ガルズオルムとの戦いという背景を知っていると、了子のイノセントさが瑞々しくも痛々しいです。VRやARの発展に伴う技術的描写の変化も巧みに取り入れられており、水準の高いノベライズとなりました。
3、由比ガ浜機械修理相談所
人間とヒューマノイドの恋や性愛というのはSFで昔から綴られてきたテーマですが、その最新変奏です。人間と機械の切ない恋愛や周囲の人々との心の交流などをあたたかく奏でつつも、物理的・社会的制約の枠に縛られ互いの本心や琴線に触れられないというもどかしさは、過去作と変わらないテーマですね。ラストは一応ハッピーエンドに着地しており、全体の構成も巧みです。願わくばジェンダー的な鋭利さがもう少し欲しかったところですが、やはりタニス・リーの域を求めるのは酷というものでしょう。
4、リビルドワールド
ポストアポカリプスかつサイバーパンクの世界観で描かれるボーイミーツガールにしてお宝を探す冒険譚です。テンプレートで塗り固められたストレートな物語ですが、王道としての面白さを有した骨太な作品です。アップテンポな筆致とアクションの描写もなかなか堂に入ったもので、エンタテイメント性が非常に高いです。当ブログで何度か書いていることですが、記号的SF・ファンタジーを批判する文学サイドの輩にいいたい。たとえ記号の順列組合せでも面白くする方法はいくらでもあるのです。まあ、私もしばしば文学サイドに立つ人間ですが・・・。
5、小説 OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー) ~八人の旅人と四つの道草~
小説 OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー) ~八人の旅人と四つの道草~ (GAME NOVELS)
- 作者:鰤/牙
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2019/07/20
- メディア: 新書
Nintendo Switchのゲームソフト『OCTOPATH TRAVELER』でプレイヤーキャラクタ―であった8人の旅人に焦点を当てたノベライズです。ゲーム本体では語られなかった旅人たちの日常における何気ない会話や所作、そして世界の点景や人々の暮らしなどが描かれていて、ゲームを補完するアイテムとして上々の出来になっています。小説単体としても十分な水準のライトノベルですが、やはり本体をプレイした後の方が楽しめるでしょう。
OCTOPATH TRAVELER(オクトパス トラベラー) | SQUARE ENIX
「OCTOPATH TRAVELER」レビュー。想像力を刺激する表現とスリリングなバトル,そして自由度の高い冒険を満喫できる作品だ - 4Gamer.net
【とりあえず2019年総括】
2018年の総括でも書きましたが、相変わらずどこまでをライトノベルとみなせばいいのかよく分からないカオスな状況で、新刊の山と格闘する幸福なのか不幸なのかよく分からない日々が続きました。その結果、ベスト5がサブジャンルぐちゃぐちゃの不揃いなものとなってしまいました。2019年はリプレイに残念ながらピンとくるものがなかったですが、不満があるとすればそれくらいですね。
いや、ここで書くことではないかもしれませんが、かつてライトノベルの名作とされた作品群の再開後のショボさに不満を述べておきます。〈十二国記〉の小野不由美は別格として国内ファンタジーの項に回しますが、〈ロードス島〉〈スレイヤーズ〉ともに往時の勢いが感じられない今一つの出来でした。〈ブギーポップ〉のアニメ化も微妙な出来に終わりましたし。昔のノリと勢いを劣化させても、懐古的な読者にはうけるかもしれませんが、時代を越えて通じるものではないということがよく分かりました。