極私的回顧第11弾は海外のエンタテイメント小説にいきます。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
2018極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その5 ミステリ系エンタテイメント(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、ピクニック・アット・ハンギングロック
「ピクニックatハンギングロック」(海外ドラマ / 2018年)の動画視聴・あらすじ | U-NEXT
カルトムービーとして有名な作品ですが、まさかこのタイミングで原作小説の邦訳がくるとは、というか、まさか今まで邦訳されていなかったとは。3人の少女と1人の教師の失踪をきっかけに、彼らが通う学校と関係する人々が崩壊し、融解していく物語です。一応、人は死にますが、それも崩壊状況の一つに過ぎず、作品全体が幻想的でミステリアスなあわいに包まれています。ロジカルな謎がなく、読後感もいい感じに醜悪なので、読み手を選ぶ作品かもしれませんが、極私的には好みです。ミステリ・ファンタジー・怪奇幻想などの境界線上にある作品であり、ジャンル分けが難しいので、この項目で評価しました。
2、愛なんてセックスの書き間違い
エリスンの無名時期の作品を中心に、非SF作品を集めた短編集です。エリスンのどぎつい文体と暴力はやはりクライムノヴェルにも合いますね。短編の名手・エリスンの才気は最初期から輝いていたことがよく分かります。極私的には、作家志望の主人公が美人編集者の不気味なオーダーに悪戦苦闘する「ジルチの女」がお勧めです。
3、カリ・モーラ
御年79歳だそうですが、トマス・ハリスは未だ壮健らしいです。しかし作家脳にかなり異常をきたしたらしく、レクター・シリーズの精緻で洗練された高級感(??)は消え去り、低級なキャラクターが下衆な行為を繰り返すB級作品に堕しました。作者の悪趣味を好む読者には期待通りのひどさですので、その趣向が許容できる方にはお勧めの作品でしょう。
4、ザ・ボーダー
『犬の力』『ザ・カルテル』と続いた麻薬戦争三部作の完結編です。過去二作のキャラクターも続々登場し、クライマックスは三部作最高の盛り上がりと完成度になりました。政治が担うべき社会的責任を問うた作品でもあり、独裁者然として振る舞う現アメリカ大統領への風刺にもなっています。ウィンズロウの健全なシニシズムこそ、今のアメリカに必要だと思うのですが。
権威主義的な指導者が揶揄される場合は大抵ヒトラーなどが定番なのですが、トランプ大統領に限ってムッソリーニのものが多い理由、絶対顔と表情のせいだと思う。 pic.twitter.com/i6EmfLkTgq
— キlュ ーア力 (@Volk_Soc) 2016年12月27日
5、沼の王の娘
狩りの技術を仕込まれた娘が脱獄した凶悪犯の父を追跡する物語であり、森の自然やサバイバルの描写、そして迫真の追跡・逃走劇も堂に入っています。しかし、物語の主題は追跡劇ではなく、社会と遮断されて育った主人公・ヘレナの異常心理と重苦しい過去、そして時折挿入されるアンデルセン童話『沼の王の娘』による暗示です。冒険小説とサイコ・サスペンスという二重構造を愉しむべき作品です。
【とりあえず2019年総括】
2019年も豊作といっていい1年でした。華文ミステリについては本格の項で触れましたが、北欧、ドイツ、フランスなど多国籍のミステリを愉しむのが今や標準となっていることは、日本の翻訳状況の豊かさを表していると思います。一方で、英米のミステリ、特にイギリスの現代本格の翻訳量が落ちている気がします。某誌のコメントには英国ミステリの退潮を嘆く声もありましたが、別に退潮ではなく、出版の限られた枠の中で他国のミステリが入ってくれば必然的に日本での紹介点数は減るわけで。痛しかゆしというところですかね。
また、ファシストたちが世界に跋扈する中、ミステリでも政治性・メッセージ性を放つ作品が印象に残った年でした。あべちゃんにせよトランプにせよ、カリカチュアが服を着て叫んでいる時代です。フィクションはもっと先を行くべきなのです。さあ、もっとやれ。
あ、当ブログのスタンスは安倍政権支持でございますので、お間違えのなきようお願いいたします。