極私的回顧第12弾はミステリ系エンタテイメント(国内)です。いつものことですが、テキスト作成のため『このミス』ほか各種ランキング、およびamazonほか各種レビューを適宜参照しています。
2018極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その6 ミステリ系エンタテイメント(国内) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、マーダーズ
寡作ですが、長浦京は現在の国内の冒険小説の書き手としてトップに位置する作家だと思います。この作品は殺人者が殺人者を狩るという異色の構成です。未解決事件が一つまた一つと浮かび上がるにつれ、主人公たちに社会の暗部からアウトサイダーが接近し、カタルシスを増していきます。これまでの作品同様の疾走感・緊迫感を残しながら、ミステリとしての完成度が高まり、長浦京はこの作品でまた一つ階段を上った印象があります。今後の活躍にも大いに期待しつつ、この作品を1位に推します。
2、昨日がなければ明日もない
安定の〈杉村三郎〉シリーズです。中編が3本収録されているこの作品も、ミステリとしてもドラマとしても完成度が高く、安心して読むことができます。いつも災難に見舞われる杉村三郎ですが、今回はろくでもない依頼人の女性に振り回されております。社会のしがらみやら組織の論理やら意味不明の客やらに振り回される、勤め人としての悲哀をひしひしと感じ、どうしようもなく感情移入してしまいます。どうもお疲れ様です・・・。
3、夜のアポロン
皆川博子の初期作品を中心にセレクトされたミステリ短編集です。装丁は現在の皆川博子を意識させるような幻想的な作りですが、収録短編はかつての猥雑な大衆小説のにおいがするものばかりです。それに加えて、ミステリとしてもシンプルで牧歌的なものが多いです。現代とのギャップを愉しむのが乙なんですが、ギャップ萌えできない方には物足りないかもしれません。
4、殺人犯対殺人鬼
子供だけのクローズド・サークル内で2人の殺人鬼が跋扈する、という設定だけでも魅力的な作品です。冷静でロジカルな計画殺人を行う殺人者と病的な殺人鬼という対比もそそりますね。容疑者の数は限られていますが、ミスディレクションが各所に仕掛けられており、読者を適度におちょくる早坂吝の技巧が冴えています。シンプルながらも堅牢なミステリであり、本格としても評価できる作品ですが、サスペンスの要素が強いと判断してこの項に置きました。
5、欺す衆生
1980年代に起きた豊田商事事件をモデルにした作品です。やがて国をも巻き込む詐欺へと邁進する詐欺師たちのエネルギッシュな側面と、人間として疲弊していく悲劇喜劇、この対比が悲哀を感じさせます。詐欺をやるなら命を削ってとことんやれということですね。
【とりあえず2019年総括】
傑作・良作が相次いだ2018年に比べ、2019年はやや小粒な1年でした。特殊設定ミステリなど本格ミステリ界隈が話題豊富だった一方で、ハードボイルドや冒険小説・警察小説・社会派などの周辺ジャンルに突出した作品がありませんでした。そのため、作柄としては今一つという印象です。警察小説については『ノースライト』が肌に合わなかっただけかもしれませんが。また、『刀と傘』は歴史・時代に回しました。
今年は是非、現実を鋭くえぐりつつも娯楽性に溢れた、骨太なエンタテイメント大作の登場を期待したいです。