otomeguの定点観測所(再開)

文芸評論・表象文化論・現代思想・クィア文化・社会科・国語表現・科学コミュニケーション・初等数理・スポーツ観戦・お酒・料理【性的に過激な記事あり】

2019極私的回顧その14 歴史・時代(書籍)

 文庫に続いて、歴史小説・時代小説の書籍についてのまとめです。いつものお断りですが、テキスト作成の際にamazonほか各種レビューを参照しています。

 

2018極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)

2017年極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)

2016年極私的回顧その8 歴史・時代(書籍) - otomeguの定点観測所(再開)

 

この歴史・時代小説がすごい! 傑作ぞろいの2019年ベスト10を発表 (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

この歴史・時代小説がすごい! 傑作ぞろいの2019年ベスト10を発表 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

この歴史・時代小説がすごい! 傑作ぞろいの2019年ベスト10を発表 (3/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

【マイベスト5】

1、神を統べる者 

神を統べる者-厩戸御子倭国追放篇

神を統べる者-厩戸御子倭国追放篇

 
神を統べる者-上宮聖徳法王誕生篇 (単行本)

神を統べる者-上宮聖徳法王誕生篇 (単行本)

 
神を統べる者-覚醒ニルヴァーナ篇

神を統べる者-覚醒ニルヴァーナ篇

 

  仏教伝来直後の古代日本、厩戸皇子を主人公として、仏教・神道道教の神々を頂きつつ、政治的・宗教的覇権を巡って様々な戦いが繰り広げられる、叙事詩であり伝奇でありエピック・ファンタジーである作品です。相変らず独特の荒山史観が炸裂し(誉め言葉です)、厩戸皇子仏陀が同一となるなど荒唐無稽な展開が散見され(繰り返しますが誉め言葉です)、奇想を駆使した歴史小説として珠玉の出来と判断したため、この作品を2019年度のベストワンに推します。

 

2、雑賀のいくさ姫 

雑賀のいくさ姫

雑賀のいくさ姫

  • 作者:天野 純希
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 読んだのが2019年なのでランクイン。サービス満点の娯楽作で、イスパニア・明・琉球など多国籍に渡る主要人物が丁々発止と多彩な個性を発揮し、雑賀・島津・毛利・村上など西国の水軍オールスターが登場して派手な海戦を展開します。疾走するようなプロットで荒唐無稽な箇所が散見されますが、やはり褒め言葉です。

 

3、刀と傘 (明治京洛推理帖)  

刀と傘 (明治京洛推理帖) (ミステリ・フロンティア)

刀と傘 (明治京洛推理帖) (ミステリ・フロンティア)

 

 こちらも読んだのが2019年なのでランクイン。収録短編全てが本格ミステリとして堅牢に構築されており、2019年に読んだ歴史・時代ミステリの中では最上の出来でした。明治初年という時代背景、および主人公・江藤新平人間性が謎解きにうまく絡んでくる構成も鮮やかで、歴史小説としても十分評価できる水準にあります。

 

4、グッドバイ 

グッドバイ

グッドバイ

 

 日本茶貿易の先駆者・大浦慶の生涯を描いた小説です。義を重んじる一本気ながら実利の駆け引きにも長けた大浦慶=お希以。欧米と日本の商習慣や感覚の違いに苦労しながらも、頭角を現していくお希以の姿が爽快です。朝井まかては『落花狼藉』がランキングやレビューなどで上位にきていましたが、極私的には『グッドバイ』のほうが好みです。まあ、この作品は2020年度のランキングに入ってくるかもしれませんが。 

落花狼藉

落花狼藉

 

 

5、風神雷神 Juppiter,Aeolus 

風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)

風神雷神 Juppiter,Aeolus(上)

 
風神雷神 Juppiter,Aeolus(下)

風神雷神 Juppiter,Aeolus(下)

 

 原田マハが度を外し(??)、俵屋宗達天正遣欧使節をないまぜにした一大冒険絵巻(??)に挑んだ「アート・フィクション」です。美しい絵画に酩酊するいつもの原田作品とは異なり、腕力でねじ伏せるエンタテイメントですが、大作をきっちり成立させるところはやはり原田マハの筆力でしょう。しかし、いつもの毛色と違いますので、アート小説としての原田マハを好む方には合わないかもしれません。

 

【2019年とりあえず総括】

 新人・中堅・ベテランとも力作が多く、全体の作柄は良かったと思います。どちらかといえば近現代史をテーマにした作品が多かった感触ですが、私の1位は古代史の伝奇小説にしました。ここ数年、堅い視座で歴史小説を読んできた反動か反省か、2019年はやや羽目を外しながらの読書になりました。 歴史小説において人物伝記や教条的な作品は重要な役割を担っていますが、歴史を荒唐無稽な偽史へと組み替えるのもまた歴史小説の愉楽の一つでしょう。