極私的回顧20弾はアニメです。今回は何とかアートアニメを滑り込ませることができました。また、いつものお断りですが、amazonなど関連サイトのレビューをテキスト作成の参考にしております。
2018極私的回顧その14 アニメ - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その14 アニメ - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その14 アニメ - otomeguの定点観測所(再開)
2019・1~3月・冬アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)
2019・4~6月・春アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)
2019・7~9月・夏アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)
2019・10~12月・秋アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、海獣の子供
映画『海獣の子供』公式 (@kaiju_no_kodomo) | Twitter
パンスペルミア説に基づくハードSFであり、スケールの大きなダーク・ファンタジーであり、切ないガール・ミーツ・ボーイであり、形而上的な根本問題をアニメーションとして見事に描き切った無二の作品。極私的には劇場版アニメとして当代最高の作品だと思います。当ブログでレビュー済みなので、再掲します。
映画の軸となっているストーリーは、あくまで主人公・琉花の成長物語でありビルドゥングスロマンであり、ひと夏のガール・ミーツ・ボーイです。盛大な「祭り」の後、琉花が学校生活へと回帰し、映画のラストシーンを妹の出産にすることで、壮大な宇宙論を奏でるだけでなくきちんと日常に着地した作品になりました。また、長大な原作を少女視点から大胆にカットして2時間の尺に収めたため、原作にあった大人の凄惨な対立や残酷な描写が軒並み削ぎ落されました。原作を読んだ人間としては食い足りなさも覚えましたが、映画単体として評するなら、「祭り」の神学と琉花の日常がうまく対置され、人間と自然の関係が無理なくサブテーマとして織り込まれて、程よいバランスのジュヴナイル・ムービーになったと思います。
しかし、何といっても感嘆すべきはやはり大いなる「誕生祭」のクライマックスでしょう。「宇宙とは何か」「生命とは何か」「世界とは何か」「神とは何か」「存在とは何か」といった、原作の「祭り」が追求した根本問題的なテーマを、アニメーション作品の映像表現としては恐らく史上初めて真正面から描き切った、稀有壮大な作品になりました。原作の「祭り」の描写は細い線で細密にかき込まれた抽象画のようなものですが、その絵を映像として巧みに動かすことで、映画における「祭り」の描写は、シュタイナーの黒板絵、あるいは神智学的宇宙の幻視を想起させるかのごとく、深遠で英知に満ちた映像表現になりました。盛大な「祭り」の表現は、根本問題的な表現について最後の最後で環境映像的な静止画に逃避した『ハーモニー』(作品としての均衡を考えると仕方なかったところはあると思いますし、あのモノリスをどうやって映像化するのか苦心したというのは分かりますし、映画として十分価値の高い作品だったと思いますが)のリベンジをSTUDIO 4℃が果たした、という言い方もできるでしょう。『海獣の子供』は、私がこれまでに観てきた劇場版アニメーションの中で間違いなく最高の作品です。WEB上では賛否が分かれているようですが、製作サイドからのコメントを除いて、この映画を的確に理解しているレビューは1つもなかったと思います。「難しい」「理解できない」といった感想が多かったですが、きちんとSF・幻想文学の先行作品を読みましょう。また、「誕生祭」を「哲学」「思想」と誤記しているレビューも多かったですが、「祭り」で表現されているのは「哲学」「思想」ではなく「神学」です。
劇場版パンフの添野知生のレビューが、現在、私が目を通した中では恐らく最も的を射ているレビューです。原作も劇場版も、根本問題を扱って壮大な神学的描写を行うSF・幻想文学の系譜に組み込まれるべきものです。SF・幻想文学の先行作品に対する理解や、神学ないし神智学的なイマージュに対する理解がなければ、「誕生祭」の描写を正しく解することはできないでしょう。添野知生は後述するパンスペルミアとも絡めて、『最後にして最初の人類』〈レンズマン〉『盗まれた街』『コスミック・レイプ』と、SF・幻想文学の先行作品を挙げていましたが、この中で『海獣の子供』(もっというなら「誕生祭」)のイマージュに最も近い先行作品は『最後にして最初の人類』でしょう。その他、根本問題的なテーマを扱ったSF・幻想文学の先行作品として、『虎よ、虎よ!』『幼年期の終わり』〈黒き流れ〉『果しなき流れの果に』『百億の昼と千億の夜』あたりを挙げておけば、『海獣の子供』が属する系譜についてとりあえずマッピングできるでしょう(SFサイドからはいろいろ反論を食らいそうですが)。極私的には、少女の成長・冒険物語と形而上学的テーマを鮮やかに融合させたという点で、〈黒き流れ〉が『海獣の子供』のテイストに最も近い作品だと思います。ただし、両者はテーマも舞台も大きく異なりますし、『存在の書』におけるイアン・ワトスンの疾駆を受け止めきれる読み手は多くないと思うので、お勧めするには躊躇がありますが。
さて、劇場版パンフのテキストにもあったパンスペルミアにいきましょう。以前、ウイロイドのテキストで、生命の起源とされる「RNAワールド」「プロテインワールド」に触れましたが、この二者は生命がそれぞれの惑星や衛星で発生したという説です。それに対し、パンスペルミアは、生命現象について宇宙における一定の普遍性を認め、生命の原料となる有機物やあるいは生物体そのものが隕石や彗星などによって惑星間を移動するという説です。提唱された当時はトンデモ扱いだったようですが、現在では生命発生の仮説の一つとしてきちんと検証されています。極私的には賛同しかねる部分が多いですが。
「祭り」のクライマックスで海から宇宙に向かって光の柱が立ち昇り、無数の生命の種あるいは生命そのものあるいは小宇宙が放出されていくシーンは、「海のある星は子宮」だとするなら地球から宇宙に向けて産卵=出産が行われているシーンであり、地球を中間宿主として生命が宇宙にさらに拡散していくことを示す壮大なシーンである、ということになります。海と空は産卵=出産を滞りなく行うための触媒であり、琉花はその立会人として地球=海=子宮に選ばれたのです。「祭り」が提示するビジョンは神学的(=神智学的)なものですが、作品の底流にあるのはあくまで科学的思考です。しかし、原作にあったパンスペルミアなどの科学的説明がほとんどカットされ、映画における「祭り」の科学的定立は意図的に宙づりにされた感があります。また、作品中でデデやアングラードがつぶやく「宇宙は人間に似ている」「海のある星は子宮」といった「祭り」についてのキーワードが神秘的・魔術的な表徴を帯びているため、また、脚本がどちらかといえば児童文学的なファンタジーの文法に則っているため、作品の背景を神秘的・魔術的(=神智学的)なものであると観客にミスリードさせる効果が得られました。さらに、長大な原作を現在視点から刈り込み、過去の出来事を「海にまつわる証言」として巧妙に映画内に配置することで、「祭り」の神秘性・魔術性をより際立たせる効果も得られました。これらを難解や説明不足なものだと感じるか、神学的=神智学的な幻視として楽しむかで、この映画に対する評価や感想は大きく分かれるでしょう。極私的には、やはり幻想の徒として幻視を愉しむ方をとりたいところです。
2、ぼくたちは勉強ができない!
ぼくたちは勉強ができない!公式 (@bokuben_anime) | Twitter
『ぼくたちは勉強ができない』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト
各期アニメの回顧で繰り返し取り上げた作品ですが、2019年のTVアニメで一番楽しめた作品なので、ここに置かざるを得ませんでした。そして今週、原作もうるかエンドで幕を閉じることが明らかになりました。先生はじめ各ヒロインが強力だっただけに、賛否両論荒れそうですねえ。
【ぼくたちは勉強ができない 149話感想】成幸、ついに告白する!!恋の結末は・・・!! : 最強ジャンプ放送局
【ぼくたちは勉強ができない】149話ネタバレ感想 成幸の告白、とうとう二人が結ばれる! : アニはつ -アニメ発信場-
ぼくたちは勉強ができない 第149話 『泡沫の人魚姫は約束の[x]に濡つ⑧』 感想: え?マジでうるかエンドなの?さすがに安易すぎない? - BLACK SWAN
『ぼくたちは勉強ができない』 149話 感想( 問.149 泡沫の人魚姫は約束の[x]に濡つ⑧ ) 感想 : うるかの夢 - 現実逃避 - hatena
【2020/03/05追記】
・・・と思っていたら、マルチエンディングで全ヒロインを救済してくれる神対応をしてくれるそうなので、楽しみにしておきましょう。で、妹ちゃんルートは??
ぼく勉パラレルストーリーでマルチエンド?
— 小倉ゆずき (@yuzuki_ogura) 2020年3月5日
五等分のなんちゃらもせめてこれやっとけよ pic.twitter.com/yZ99Zhkd0N
ぼく勉
— 来桐(クルキリ) (@take3take31) 2020年3月5日
マルチエンド
順番は
リズ→文乃→あしゅみ→先生の順番っぽい pic.twitter.com/gEiBHrCGKU
3、可愛ければ変態でも好きになってくれますか?
TVアニメ「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」公式サイト
可愛ければ変態でも好きになってくれますか? - Wikipedia
TVアニメ「可愛ければ変態でも好きになってくれますか?」公式 (@hensuki_anime) | Twitter
2019年、変態枠として最も楽しめたアニメです。レビュー済みなので再掲します。
2019・7~9月・夏アニメ極私的回顧 - otomeguの定点観測所(再開)
アニメ独自の演出や解釈を加えつつも原作の世界をきちんと描いており、変態のテンションも最後まで落ちませんでした。魔女先輩の貢献が大きいですね。作画についてはツッコミどころがありそうですが、原作絵もヘタウマだし、色物世界を描くうえでかえって作画がいい味を出していた気もします。瑞葉の変態面を最後の最後まで引っ張ったシナリオも効果的でしたね。原作では、露出狂がばれてから瑞葉がリミッターを外して兄にアプローチし始めるので、それも面白いのですが、そこまでいくにはさすがに尺が足りませんでした。多分2期はないような気がするので、残りの生徒会メンバーも含めたさらなる変態面を味わうのは原作でお願いします。
4、La Chute
アニメーション部門 - 文化庁メディア芸術祭 - JAPAN MEDIA ARTS FESTIVAL
ダンテ『神曲』に着想を得たミニマルアニメーションであり、昨年度の文化庁メディア芸術祭・アニメーション部門大賞作品です。2018年制作で、その評判は聞いていましたが、鑑賞したのが2019年だったので、ここでレビューし、ランクインさせました。地上から天上、そして地獄へと展開する世界では、地上では人間と植物、空では鳥のごとき天使が躍動し、白と黒のモザイクが変転しながら強烈な生命力を描き出しています。そして、個物が運動体に統合されて画面の各所で動き回る様は、有機的な哲学をも想起させます。やがて天と地が交わり、巨人が人間を食らい、天地が破壊され、混沌となり・・・ゴヤ、ヘンリー・ダーガー、ボッティチェリ、フランシス・ベーコン、ポロックなど古今東西の様々な絵画を連想させる画面は、アートとして既に一つの到達点にあるといっていいでしょう。
5、ケムリクサ
TVアニメ「ケムリクサ」公式☘最終話ご視聴ありがとうございました☘ (@kemurikusa) | Twitter
こちらもこのブログをご覧の方には説明不要の作品かと。すでにレビュー済みなので、大御所のツイートと併せて再掲します。
アニメ「ケムリクサ」1・2話を見る。実は1話は配信直後に見ており(タイトルが気になって)、「けもふれ」話題を知らずに見たから、幸い先入観ナシの感想です。荒廃した世界なら「少女終末旅行」もあるが、ドラマを辿りやすいロードアニメ?とは違う。あれは線でも、こちらはいわば面だ。(つづく)
— 辻 真先 (@mtsujiji) 2019年1月21日
(「ケムリクサ」つづきです)情報量が飛躍的に増すため、説明不足が視聴習慣の足を大きく引っ張る。それでもついて行かせたいなら、舞台や人物の魅力を更に磨く必要がある、なんて釈迦に説法ですね。流動食の多いテレビアニメでは歯ごたえがあるので、ぼくは見ます。視聴者を選ぶ作品には違いないが。
— 辻 真先 (@mtsujiji) 2019年1月21日
アニメ「ケムリクサ」6話まで見た。黒と赤が基調の鬱画面に対比して、前向きで礼儀正しいキャラクター。情報を小出しにしてゆく脚本も、緑色の足を生やしたトラム演出も、「わからん」とそっぽむく視聴者の存在まで、計算にいれてるだろうと思うといっそ愉快で、上の意向を忖度しない作風が羨ましい。
— 辻 真先 (@mtsujiji) 2019年2月16日
「ケムリクサ」12回まで観了する。テレビアニメとして極めて充実した作品だ。既視感に頼りがちなユーザーに甘えず、オリジナリティ横溢の設定と人物と画趣。理解が及ばぬ部分は、遠慮なく我流で解釈させてもらったけど。一から十まで訓育されるより、余白を想像力で展開できる物語を僕は歓迎します。
— 辻 真先 (@mtsujiji) 2019年3月28日
『けもフレ』騒動という些末なことはもはやどうでもいいです。恐らく2019年の覇権にして、これから永く『けもフレ』1期と並び「たつき」という名前を決定的なものにした作品として語られていくであろう、オールタイムベスト級の名作です。これからいくらでも批評が出てくるであろうアニメですし、私もいろいろこねくり回してみようと思っていますが、とりあえずはこちらの御大のコメントに集約されるかと。
クリエイターもユーザーも妥協することも媚びることもなく、想像・推理の余白が適度に残された作品。何と幸福なバランスなのでしょう。一見視聴者を選びそうな自主製作アニメという印象でありながら、これだけ多くのファンがついたのは、画趣を有した批評性の高い作品を受け入れる素地が日本のアニメ文化にあるということです。結局、仕事というのは誠意を忘れることなく妥協せず真面目にやり抜くことが一番大切なんですね。
【2019年とりあえず総括】
『海獣の子供』『La Chute』を筆頭に、TVアニメも劇場版もアートアニメも知的刺激に富んだ作品が多く、極私的には豊作の1年でした。TVアニメの出来には各クールでムラがありましたが。久しぶりにアニメで満足できた1年でした。
『ケムリクサ』における辻真先のツイートに集約されていると思いますが、やはり理想的なアニメ作品とは媚びた流動食(それはそれでおいしくいただきますが・・・)ではなく、オリジナリティが横溢し想像力と解釈の余白を残した批評的な作品です。クリエイターもユーザーも媚びることなく互いの感性をぶつけ合う、そんな知的刺激に満ちた鑑賞が理想的なのでしょう。2019年は琴線を揺さぶられる作品が多かったです。この状況が2020年も続いてくれるといいのですが、なかなか難しいか・・・。