2019極私的回顧その26 SF(海外)
2019年の極私的回顧もようやく終盤に突入。第26弾は海外SFについてのまとめです。作品によってはファンタジー・幻想文学など他ジャンルに配したものがあります。また、いつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい!』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2018極私的回顧その18 SF(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その18 SF(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その18 SF(海外) - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、三体
これは文句なしでしょう。『SFが読みたい!』のぶっちぎり1位で、近年の海外SF最大のベストセラー。散々書評・評論されている作品なので、何を書いても手垢のついたコメントになりますが、ポストヒューマンをにらんだ実在論の射程を有したスペキュレイティヴ・フィクションであり、緻密で壮大で膨大なSFのギミックが投入され結合されていく破壊的なスケールのSF。間違いなく21世紀最高のSF作品の1つです。小松左京の後継は日本ではなく中国にいたということですね。ネタバレは避けますが、第2部・第3部も期待に違わずめちゃめちゃ面白いのでご安心ください。
2、パラドックス・メン
ワイドスクリーン・バロックとは、膨大なアイデアを作中に投入して心地よいでたらめといかさまをばらまきつつ、プロットと時間軸を複雑怪奇に錯綜させながら物語がすさまじくスケールアップするので読者は混乱するけれども、最終的にはSFとして一つの円環に収まる作品のことですが、これがその元祖。オールディスの慧眼、むべなるかなというところですね。大作にして力作にして怪作ですが、読み手は選ぶかもしれません。
3、声の物語
女性の権利が極端に制限された社会を描く、ディストピア&フェミニズムSFです。作中世界は極度の管理社会であり、女性の権利が剥奪されディストピア化する過程が克明に描かれています。いまだ前時代的でくだらぬ男権が幅を利かせる現代の日本および一部のマッチョを自認する似非SF者どもに突きつけるべき作品です。
4、生まれ変わり
ケン・リュウの第3短編集です。中国の歴史や社会に足をつけた作品から、スケールの大きなSF、語りに文学的技巧を凝らしたもの、スペキュレイティヴな思弁に富んだもの、絵文字で遊ぶ作品まで、多様なアイデアと技巧に満ちた短編が並んでいます。駄作がないのがとにかくすごい。『三体』同様に中国SFの勢いを感じられる短編集です。
5、ビット・プレイヤー
イーガンはハードSF作家であり、ハードさに脳を震わされるのが面白いのですが、もっとシンプルにSFとして物語として面白いのだと感じさせる、文芸寄りの短編集です。『白熱光』や『ゼンデギ』系列の短編がある一方で、宇宙SF、時間旅行、SFミステリなど短編のテーマも多岐に渡っており、イーガン入門としても勧められる本でしょう。
【とりあえず2019年総括】
ここ数年同じことを書いていますが、2019年もやっぱり書きます。表向きの作柄は豊穣でした。『三体』に代表される中国SFには勢いがありますし、英米SFも〈危険なヴィジョン〉完全版などクラシックを含めて粒がそろっていましたし。『SFが読みたい!』にはSFの第三黄金期であるなんてコメントもありましたが。・・・と、ここまでが表向きのコメント。
しかし、思弁の強度が高くない、文芸として小説として完成度の高くない作品がやはり多い。というか、SFの評価において小説としての完成度や物語る力への評価が抜け落ちている気がしてならない。エンタテイメントとしての強度が高くない作品がどうして上位にくるのか。小説としての完成度では他のジャンル小説の方が勝るのではないか。思弁の強度や純度はもっと上げられるのではないか。各種書評だのランキングだのアンケートのコメントを見ていて、ここ数年抱いている思いを2019年もくすぶらせていました。