極私的回顧、遅まきながらようやくラスト前まで来ました。毎年のお断りですが、読んでいる冊数が恥ずかしながら少ないので、国内外の作品をまとめて配しております。また、こちらもいつものお断りですが、テキスト作成のために『SFが読みたい』およびamazonほか各種レビューを参照しております。
2018極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)
2017年極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)
2016極私的回顧その23 ホラー・怪奇 - otomeguの定点観測所(再開)
【マイベスト5】
1、蒼い琥珀と無限の迷宮
「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」をテーマに、石神茉莉の作品を集めた短編集です。ストレートな怪奇ものからクトゥルフ神話、幻想短編までバラエティに富んでおり、作者の射程の広さを垣間見ることのできる1冊です。異形への畏敬に満ちた独自の味わいも相変わらずで、久しぶりに石神茉莉の世界を耽溺することができました。表紙の林美登利の生首人形もやはり相性抜群ですね。
2、幻想と怪奇 傑作選
かの《幻想と怪奇》が再始動。まずは1970年代刊行時の傑作短編を集めたこの1冊です。さすがに各短編が傑作揃いであるうえ、紀田・荒俣による当時の状況を振り返るエッセーも、日本の幻想文学史を語るうえで外せないもの。そして、《幻想と怪奇》の先鞭をつけた《THE HORROR》も完全収録されており、当時の熱気が伝わってくるようで興味深いです。まずは一読者としてこのプロジェクトを応援していきたいと思います。
3、モリアーティ秘録
キム・ニューマンによる、モリアーティに焦点を当てたパスティーシュです。モラン大佐から見たモリアーティの姿が天才でありながらお茶目で人間くさくて魅力的です。いつものニューマンよろしくネタが大量投入されており、シャーロキアンではない私でも分かるホームズ正典からの引用やパロディや裏返しがなど満載です。また、実在の人物やクトゥルフ神話などホームズ以外のネタも豊富で、見どころの多い作品です。
4、ネクロスコープ
ブライアン・ラムレイの代表作がようやく刊行開始となりました。冷戦の影で活躍するスパイたちの霊的諜報戦を描いたホラー・アクションです。通俗的なスパイものもラムレイの手にかかると奇想天外な物語へと変貌し、〈タイタス・クロウ〉同様の壮大なスケールになります。シリーズは始まったばかりなので、早期の続刊を期待します。
5、死者の饗宴
これまで日本で散発的な紹介はされてきましたが、本格的な刊行がされてこなかったジョン・メトカーフ。浅学ながら私も読んだことがない作家でした。下記リンクで詳しく紹介されています。どの短編も読後感の悪さが絶品。妄想とも怪異ともつかない不気味なものが登場し、読者の不安をあおって多様な解釈を要求しながら、最後までその正体がつかめない曖昧さ。読みながら不安と不満が折り重なり、悶々とした思いで本を閉じましたが、これがこの作者の味なのでしょう。
『死者の饗宴』(国書刊行会) - 著者:ジョン・メトカーフ 翻訳:横山 茂雄,北川 依子 - 横山 茂雄による訳者あとがき | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
【とりあえず2019年総括】
ここ何年か同じことを書いていますが、海外作品におけるクラシックやネオクラシックの発掘、クトゥルフ神話物の刊行、モダン・ホラーの刊行。国内作品におけるジャンル・ホラーの作家の作品の刊行、サブジャンルである怪談もの、他ジャンルからの越境など。海外・国内ともにラインナップは揃っていたので、ジャンル・ホラーは運動体としてしっかり動いていたという印象です。『SFが読みたい!』のジャンル評にもあったように、特にクラシックの発掘・刊行が活発でした。
しかし、これも毎年同じことを書いている気がしますが、ジャンルを活性化するような大作もなく、突破的なエネルギーを感じないのもいつもと変わらない印象でした。キング御大をちゃんと評価していないと文句を言われるかもしれませんが。
日本ホラー小説大賞は横溝正史ミステリ大賞と統合されて横溝正史ミステリ&ホラー大賞として再スタートしましたが、統合初年度の受賞作はともにホラー作品でした。ミステリ読みとしてはもっと本格に傾倒した正統派ミステリを期待したいところですが、怪奇・幻想の徒としてはホラーの良作の刊行を期待したいところ。とにかく、ホラーの文学賞の灯がともり続けているのは朗報ですね。